遺族に支給される年金にはいくつかの種類がありますが、それらを受給するためにはいくつか手続きをしなければいけません。特に、「未支給年金」は手続きを忘れてしまうと、本来受け取れるはずの年金が受け取れなくなってしまいます。さらに未支給年金を受け取った場合、相続税の課税対象になるかどうか、判断に迷うでしょう。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、年金受給者が亡くなった場合の手続き、未支給年金の概要について解説すると共に、相続税の課税有無についてもご説明いたします。

目次
年金受給者が亡くなった場合やるべき手続きは?
未支給年金とは?
未支給年金は相続税がかかる?
まとめ

年金受給者が亡くなった場合やるべき手続きは?

年金受給者が亡くなった場合、やるべき手続きを説明していきます。

1:死亡届の提出

公的年金を受給している人が亡くなったときは、亡くなった翌月から年金を受け取る権利がなくなります。そのため、下記の書類を「年金事務所」もしくは、「年金相談センター」へ10日(国民年金は14日)以内に提出することが必要です。ただし、日本年金機構に亡くなった方の個人番号(マイナンバー)が収録されている場合は不要になります。

(1)受給権者死亡届(報告書)

(2)亡くなった方の年金証書

(3)死亡の事実を明らかにできる書類(住民票の除票、戸籍抄本、市区町村に提出した死亡診断書のコピー、死亡届の記載事項証明書のいずれか)

2:未支給年金請求の届出

年金受給者が亡くなった場合、未支給年金の請求を行います。厚生年金、国民年金などの公的年金の場合は次の書類の提出が必要です。

(1)未支給年金・未支払給付金請求書

(2)亡くなった方の年金証書

(3)亡くなった方と請求する方の続柄が確認できる書類(戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写しなど)

(4)亡くなった方と請求する方が生計を共にしていたことがわかる書類(亡くなった方の住民票の除票および請求する方の世帯全員の住民票の写しなど)

(5)受け取りを希望する金融機関の通帳

(6)生計同一関係に関する申立書(亡くなった方と請求する方が別世帯の場合のみ)

なお、年金には企業年金や個人年金保険などの私的年金もあります。未支給部分の請求に関する手続きは、企業年金は企業年金連合会などに、個人年金保険は加入先の保険会社で確認されると良いでしょう。

未支給年金とは?

未支給年金とは、亡くなった方が受け取るべきだった年金のうち、まだ支給されていない部分のことです。国民年金や厚生年金などの公的年金は、亡くなった月の分までもらうことができ、実際に支給を受けるのは対象月の翌月以降になるため、亡くなった時点では必ず未支給年金が発生します。

ただし、未支給年金は亡くなった年金受給者と生計を共にしていた3親等内の親族がいなければ、受け取ることができません。また、未支給年金を受け取れる方には次の優先順位があり、先の順位の方がいれば、後の順位の方は受け取ることができません。

(1)配偶者、(2)子、(3)父母、(4)孫、(5)祖父母、(6)兄弟姉妹、(7)その他3親等内の親族

国民年金・厚生年金は、偶数月の15日に前月までの2か月分がまとめて支払われることになっています。例えば、8月20日(偶数月)に死亡した被相続人は、8月15日に6月分と7月分の年金を受け取っています。しかし、年金は、死亡した月のものまで支払われるので、遺族は8月分として、1か月分の年金額を請求することが可能です。

一方、9月20日(奇数月)に死亡した被相続人は、8月分と9月分の2か月分の請求が可能となります(10月15日に受取り)。年金請求の手続きが終わると、おおむね3か月から4月か月程度で「未支給【年金・保険給付】決定通知書」が日本年金機構から送付されます。そして、通知書が送付されてから、おおむね2か月程で未支給年金が振り込まれることになるでしょう。

なお、企業年金や個人年金などの私的年金でも、未支給年金が発生する場合があります。公的年金と同様に、亡くなった月までの年金でまだ受け取っていない部分が未支給年金になる他、一定の保証期間内に年金受給者が亡くなった場合、残りの年金が未支給年金となるのです。

例えば、保証期間が15年で受給者が10年目に亡くなった場合、残りの5年で受け取る年金が未支給年金となります。振り込まれる時期についてはそれぞれの関係機関に問い合わせてください。

未支給年金は相続税がかかる?

国民年金や厚生年金などの公的年金は、受給者とその家族の生活保障のために支給されるものであり、受給者が亡くなった場合は遺族の生活保障のために支給されるものです。そのことから、相続財産として扱われません。よって、その未支給年金は相続税の課税対象となりません。しかし、未支給年金を受け取った遺族の、一時所得に該当するので注意が必要です。

一時所得は総収入から経費と50万円の特別控除を引いて計算されるものです。しかし、未支給年金を受け取る遺族は保険料を支払っていないので、収入から特別控除を引いて一時所得を計算します。よって、50万円を超える未支給年金を受け取った場合は、所得税の確定申告が必要です。

また、企業年金や個人年金などの私的年金は相続財産に含まれるため、その未支給分も同様に相続財産に分類され、相続税の課税対象となる場合があります。企業年金の場合、死亡した月までの年金で受給者に支払われていない部分については公的年金と同様、相続税の課税対象とならず、受け取った遺族の一時所得に該当します。

一方、死亡の翌月から保証期間が満了するまでの年金は、定期金に関する権利として相続税の課税対象です。なお、定期金に関する権利は、次のいずれか多い金額で評価することになります。

(1)解約返戻金の額

(2)一時金として受け取るときの金額

(3)将来受け取る年金から金利部分を引いて現在の価値に直した金額

個人年金は、受取人が年金受給権を相続したとして相続税の課税対象となり、定期金に関する権利と同様の考え方で評価します。

まとめ

年金にはいろいろな種類があります。本記事では、その未支給年金の受け取りにはそれぞれ受け取るための要件や手続きがあり、税金の取り扱いも異なることを紹介しました。実際に、未支給年金を受け取る状況になれば、それぞれ個々の状況に応じた確認をする必要があります。相続時に年金に関して不安なことがありましたら、税理士などに相談をするとよいでしょう。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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