東京ではダメな理由とは?

翌朝、7時から息子さんのマンション前で張っていると、8時にスーツを着て出てきました。そこで私が声をかけて「〇〇さんですよね」と話しかけると、ものすごく警戒した顔をしていましたが、「探偵です」と言うと、「とうとう両親にバレましたか」と無表情で語っていました。

息子さんはこれから、非常勤講師をしている中学校に行くとのこと。「通勤に1時間くらいかかるので、なぜ、僕がここにいるのかをお話します」と言ってくださいました。

息子さんは幼いころから、立派な両親と比較され、親戚から「跡継ぎだ」と言われることを苦痛に感じていたそうです。

「父のような経営者を目標にしていたこともありましたが、高校生になった頃から、僕は経営者よりも、目の前の困った人に手を差し伸べたいと思うようになったんです。でも、公務員になるのはピンとこない。手っ取り早く金が稼げる仕事に就いて、お金を貯めて弁護士になろうと思ったのですが、あれはホントに狭き門で。その過程で、教育の重要性に気が付いて、友人に誘われるまま、ここにきて、もう5年になります」

大学でも、外資系銀行でも、周囲とも打ち解けることができず、ずっと孤立していたとのこと。

「アッパークラスの人と対等に会話をできないと、父のようにはなれませんからね。僕が求めているのはお金ではなく、将来の社会に役立つ人を育てることなんです。今の自分には満足していますが、両親には申し訳なくどうしても言い出す事が出来なかったんです。今、公立学校の採用試験を受けているのですが、これに合格したら、両親に正直に話すつもりだったんです」

息子さんの話では、東京の教員採用試験は他の地方に比べて倍率も低い。

「でも、僕は困難を抱える人と向き合いたいので、地方がいいんです。地方で先生は人気の職業ですからね。もう何回も落ちていますが、教員採用試験は年齢制限がない。頑張りますよ」

そう、明るい顔で語っていました。

この1時間で息子さんと私たちはすっかり打ち解けてしまい、その夜に彼の家で鍋をすることになりました。彼が結婚するつもりだという女性も来ていたのです。息子さんに「この様子をZOOMでご両親につないでもいいか」と聞いたところ、「是非」と返事をいただきました。

両親である壮一さん・祐美子さんは「あなたが生きていればなんだっていいのよ」と泣いており、息子さんも女性も大泣きしており、教員採用試験に向けて勉強すると張り切っていました。

探偵・山村佳子
夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県出身。フェリス女学院大学卒業。大学在学中に、憧れの気持ちから探偵社でアルバイトを始め、調査のイロハを学ぶ。大学卒業後、10年間化粧品メーカーに勤務し、法人営業を担当。地元横浜での調査会社設立に向け、5年間の探偵修業ののち、2013年、リッツ横浜探偵社設立。依頼者様の心に寄り添うカウンセリングと、浮気調査での一歩踏み込んだ証拠撮影で、夫婦問題・恋愛トラブルの解決実績3,000件を突破。リッツ横浜探偵社 http://www.ritztantei.com/

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