断捨離をしなかったので、モノを買う必要もない

恵美子さんに貯金額を聞くと、800万円だという。ただ、このお金は60歳で定年退職したときから減っていない。

「それなりに大きな会社で働いていたのだけれど、私は30歳のときに採用されているし、当時、女性は差別されていたので、退職金がなかったんです。まあ、そういうものだと思って受け入れていました。なので、この800万円は私が貯めたお金。15年前に両親が亡くなったときに、兄が親の遺産(1000万円程度)をもらい、私が今住んでいる実家を得たんです。ここを売ればそれなりの金額になるけれど、そんな必要もないしね」

恵美子さんの生活費を聞くと、「月4万円も使わないよ」と言う。光熱費や医療費を含めてその金額だというから驚きだ。

「まず、1階の6畳のリビングでしか生活していないので、光熱費がかからないんです。食べ物も1人ならそんなに要らない。職場で残った食材がもらえるし、食べ物にこだわりがないので必要なものしか食べていないから。その結果、粗食なので医療費はかかりません。持病がないんですよ」

あとは、断捨離をしていないことも大きい。両親が残した実家は、モノにあふれているので、食器や服、ストックのトイレットペーパーやティッシュペーパー、洗剤は死ぬまで買う必要がないと思うほど在庫がある。

「6畳一間にぎっちぎちにペーパー類や古新聞などがストックされていたんです。1人だから全然減らない。たまにオシャレがしたくなれば、母の着物が唸るほどある。服やジュエリーもたっぷりあって使い放題。いい食器も山のようにあるので、心が満たされるんですよ。自分の居住空間は、モノを置かずにスッキリと整えて清潔にしていますが、その他の空間はモノだらけ。なんでもあるので、買う必要がないんです」

仕事をしていると、余分な時間はなく“推し活”をする気持ちにもならないという。

「男は前の亭主でこりごりだし、私はミーハーな気持ちが昔から少ない。旅行も行ってみたいとは思うけれど、そのための準備でうんざりしてしまう。それなら、近所の公園を散歩したり、近場に出かけたりするので十分」

恵美子さんの話を聞いていると、定年後は禅の教えである「足るを知る」ことが大切なのではないかと感じる。一人は孤独だとか、お金の不安をあおられることも多いけれど、恵美子さんが「今できることを無理せずにする」と生きている姿を見ると勇気が湧く。

定年後の生活に正解はない。多様な可能性を模索しながら、今から準備をすることが大切なのではないだろうか。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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