昨今、様々なハラスメントが話題になっています。サライ世代の方々は、「パワーハラスメント」について、職場で研修を受けたという経験がある方もいらっしゃることでしょう。

こういった会社の研修では、「上司が部下にハラスメントをしないように」という観点で行われることがほとんどです。しかしながら、時には立場が逆転するケースがあることをご存知でしょうか? 実は近年、部下が上司に対して、パワーハラスメントを行うという、いわゆる「部下ハラ」という逆転現象も起きているようです。

本記事では、社会保険労務士の塚原美彩が、「部下ハラ」の事例や、「部下ハラ」が起きやすい会社の特徴、対応方法などを解説いたします。

目次
部下ハラスメントの具体例
年功序列の会社こそ危ない
異変を感じた時の初期対応が重要
最後に

部下ハラスメントの具体例

ここからは、筆者が社会保険労務士として、様々な企業や自治体での労務相談に携わっている中で、特に記憶に残っている事例をご紹介いたします。

「なぜ自分が?」新設部署の責任者に抜擢

これは、とある金融系企業での事例です。この会社では、デジタル技術を活用し、業務を効率化する、いわゆる「DX化」を急激に進めていました。今までは紙で行なっていた業務もどんどん電子化され、目まぐるしく業務フローが変わっていくことに、混乱するベテラン社員たち。この頃、慣れない業務でのミスや、トラブルが頻発していたと言います。

そんな問題を解消すべく、DX推進を専門とする部署が新設されることになり、その部長に抜擢されたのが、Kさん(50代後半・男性)でした。Kさんは、この辞令には、全く気乗りしなかったと言います。

「そもそも、“なぜ私が?”という感じでした。システムのことは全く分かりませんでしたから」。そう語ったKさんですが、「今後定年まで転勤がない」という条件に惹かれ、結局この部署の責任者を引き受けることにしました。

「高齢の母親の介護があるので、転勤の可能性が無いというのは、ありがたい条件だった」とKさんは当時を振り返ります。当初Kさんは、この選択が、後々自分を精神的に追い詰めることになるとは、想像もしていませんでした。

「なぜそれで部長が務まるのか、疑問で仕方ないです」

Kさんが新設部署で任された主な業務は、システム開発の全体指揮や、社内のDX関連のプロジェクトの統括管理でした。部下たちは、20代から30代が多く、IT系企業など、他業界から中途採用された者も半数以上。価値観のギャップなどもあり、話がかみ合わないことは、Kさんもすぐに感じ取ったと言います。

「私が何かを発言するたびに、部下たちが目配せをしているのに気が付きました。最初こそ無視していたのですが、決して気持ちが良いものではありません。とうとうある日、堪忍袋の緒が切れました」と語るKさん。

Kさんは、ある会議中、部下たちに、「言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうか」と言いました。すると、しばらくの沈黙の後、若手のリーダー的存在だったSさん(30代前半・男性)が口を開きました。「では、はっきり言いますね。まず、部長はシステムのことを、全く分かっていませんよね。なぜそれで部長が務まるのか、疑問で仕方ないです」

Kさんは、その後をこう語ります。「そこからは、地獄のような日々でした。Sたち部下数人が徒党を組んで、延々と知らないIT系の単語について、理解を試すように質問してくるのです。質問というより、もはや詰問でした」

「定年までこの日々が続くのか」

Sさんたちの行動は、さらにエスカレートしていきました。Kさんの机の上に、分厚いシステム関連の専門書を、山のように積み上げるなどもしていたようです。「勉強してくださいよ。その肩書を名乗っていて、恥ずかしくないですか?」などと嘲笑交じりに言われ、悔しさに震えた日もありました。

「定年まで、これが続くのかと思うと、真っ暗な洞窟の中を、一人きりで歩いているような感じでした」と、Kさんは当時の心境を語ってくれました。

ついに精神的に限界を感じたKさんは、本社の人事部へ懇願の末、役職を降りるという決断に至ったと言います。会社は、この事件をきっかけに、管理職が悩みを共有しやすいよう、ヒアリングなどを定期的に行うようにし、社内通報制度なども設けました。その後、若手のリーダー的存在だったSさんは、別の上司とも同様のトラブルを起こし、自主退職に至りました。

年功序列の会社こそ危ない

実は、このように、ITスキルなどが原因で、上司と部下の力関係が逆転してしまうことは、他の会社でもよく聞く話です。特に最近では、急激に仕事を取り巻く環境が変化しています。新しいシステムの導入や、紙で行っていた業務が急に電子化されることも珍しいことではありません。

特に、Kさんの事例の場合、年功序列の風土が残っている会社だったことが、問題に拍車をかけてしまったように思います。年功序列が、部下ハラを招きやすいというと、少し逆説的に聞こえるかもしれません。ですが、こういった会社では、ITに関わる経験がない人でも、勤続年数が長いという理由で、責任者にされてしまうことがよくあります。

これまでの経験やスキルが使える部門での管理職になるならまだしも、全くの未経験の仕事で、部下たちを取りまとめるのは、至難の業でしょう。

Sさんたち若手社員は、「自分たちのスキルが、正当に評価されていない」と、日々不満を漏らしていたと言います。定期的に実施されていた社内アンケートでも、「もっとデジタル関連に精通した人を上司にしてほしい」という声が多数寄せられていました。Kさんは、そういった会社の人事体制や、評価制度に対する不満のはけ口にされてしまっていたとも言えるのではないでしょうか?

異変を感じた時の初期対応が重要

ここからは、Sさんのような部下に悩まされた時の対応方法を解説いたします。

最も大切なのは、単独で判断や対応をしないことです。というのも、上司にハラスメントをする部下は、多くの場合、集団で仕掛けてくるパターンが多いからです。また、怒鳴るなどの強い態度での注意は、控えるべきだと言えるでしょう。これを受けた部下たちが、「上司にパワハラされている」と、被害者として訴え出るというケースも少なくありません。

正直なお話をしますと、「騒いだもの勝ち」になってしまっている会社も、多く見受けられるのが現状なのです。もちろん、日頃の業務上の注意を、上司から行うのは当然でしょう。しかし、Kさんの事例のような、集団での詰問や、嫌がらせを受けている場合は、事態を早めに会社の上層部へ報告した方が得策です。

この時、「自分個人が困っている」ことを主張するより、「会社に不利益をもたらしている」という観点で、具体的に話を進めると、会社も耳を貸してくれる可能性が高くなります。異変を感じた時から、早めに情報を会社に共有しておくことで、後々何か大きなトラブルがあった時にも、対応しやすいでしょう。

最後に

本記事では、部下によるパワーハラスメントである「部下ハラ」の事例をご紹介いたしました。場合によっては、懲戒処分もありえるのが「部下ハラ」です。決して単独で判断せず、組織としての判断を仰ぐことをお勧めします。

●執筆/塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)

社会保険労務士。
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
ホームページ:https://tsukaharamisa.com

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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