誰にも相談できず、金があっても辛い
「それまで、芸能人の不倫を過剰に攻撃するニュースに対して、くだらないと思っていた。それに対して関係者でもない奴らが攻撃するのも醜いと感じていた。たかだか男女の問題じゃないか。他人と交渉をしていても夫婦がつむいできた歴史は揺るがないと思っていた。でも今回、妻の浮気に直面して、それは違うとわかった。不倫は罪深い。されたほうは気持ちのやり場がなくなる。この年で、こんな苦汁を味わうとは思わなかった。ひたすら辛いよ」
なぜ、探偵に調査を依頼したのだろうか?
「はっきりさせたかったんだ。疑い続けるのに疲れてしまった。最初、どうしても認めたくなくて、『これは妻の男友達の体調が悪くなり、妻が介抱している』と思い込もうとした」
浮気の証拠はあったものの、妻に突き付けることはどうしてもできない。
「信頼していた妻は、この世にもういない。相手の男と僕のことを笑っているんだろう。証拠を見せたら『ああそう、ではさようなら』と出ていかれたら、これから僕の世話は誰がしてくれる? この広い家で、男一人で暮らすって、僕からすれば、まだ若いあなたのような人には想像もつかないくらいの恐怖だよ。庭を見れば妻と植えた梅やライラック、金木犀が育っていて、種から育てたモミジも成木になっている。家のどこかしこに妻の痕跡があり、食器洗い機も洗濯機どころか、電子レンジも使い方がわからない」
光男さんが選んだのは、黙殺するという選択。
「妻の姿を見ると苦しくなる。すると買い物してしまうんだよ。金はある。だからデジカメ、パソコン、低温調理器、オーディオ、イヤフォン、スピーカー、南部鉄器の鍋……妻と一緒に使えそうなものをネットからポチポチ買ってしまう。妻は『また買ったの?』とあきれたように言う。『お前のせいだ!』って怒鳴ってやりたい」
妻が外出する日に、光男さんは当てつけのように夜の街に繰り出す。
「70歳くらいのバアサンがやっている、新宿のぼったくりスナックに行って、ビール1本4万円とか払ってしまう。ぼったくられても通っていたら『もう来ないで』と言われてしまった。金があっても辛いね。辛くてたまらない。誰にも相談できない。今日も妻はあの男に会っているんだろうな。穏やかで幸せな日々を返してほしいと今は思っています」
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。