近くのカフェで交わされた「財産狙い」の会話
調査に進展があったのは、3日目の朝11時。健康器具展示販売場で見たスーツの男性が、お母様の自宅のチャイムを押しました。
すると、毎日派手な色の服を着ているお母様ですが、ひときわハデな服を着て、家から出てきました。
2人は手をつなぎながら、スローペースで駅まで歩き、お蕎麦屋さんに入ります。男性は、スーツをビシッと着こなし、笑顔を絶やさずニコニコしながら、お母様のことを見ています。テーブルの上でもお母様の手を握っており、恋人のようでもあり、親子のようでもある不思議な雰囲気です。
男性はビールを、お母様はお茶を飲んでいる。2人の会話はテレビや人のうわさ話が中心。とても楽しそうで、お母様は頬が上気しています。恋する女性の表情だと感じました。
世間話の中に、男性が「今、ご家族の皆さんとは、あまり連絡を取ってないんだよね」とか「あなたの家の金庫の番号を知っているのは誰なの?」とか、「おうちにお金を置いといちゃダメだよ。今、物騒だから。僕と一緒に銀行に預けに行こう」などとちょいちょい挟んでくるのです。確実にお母様は狙われている。もちろん、録画も録音もしています。
お母様が「よくわからないの」と言うと「悲しいな、僕は悲しいな」と大げさに嘆く。1時間くらいで食事を終えると、男性が2000円ほどの会計を済ませて、一緒にショッピングセンターへ。
男性はお母様の日用品の買い物に付き添い、荷物を持つ。疲れたと言ったら、ベンチをすすめお茶を持ってくるというかいがいしさ。
驚いたのは、お母様がトイレに行ったとき。出てくるところを待つ間に、お母様のバッグを無断で開けて、財布の中身と、スマホの中身をチェックしていました。
これはいよいよマズいと思い、依頼者・哲也さんに連絡します。哲也さんは勤務中でしたが、「それは大変だ!」と、勤務先からタクシーを飛ばしてやってきたのです。電話から30分後のことでした。
ちょうど、お母様と男性が店を出たところだったのですが、お母様の前で、男性に「君は母のなんだ」と詰問。
男性は、明らかにうろたえた様子で、その場を去ろうとします。哲也さんはその手を捕まえて「名刺を出せ」と言う。しかし男性はスッと手を抜いて、一目散に走りだします。哲也さんは「戻れ! バカ!」と大声を出しましたが、男性は逃げていきました。
あっけにとられているのはお母様です。哲也さんはお母様に対して、「何をやっているんだ! バカじゃないのか。男に目がくらんでるんじゃないよ。みっともない!」と頭ごなしに叱りつけます。
するとお母様は「あなたこそ何なの? 私の大切なお友達に対して、失礼じゃないの。謝りなさい」とものすごい剣幕。路上で言い合いが始まりそうなところに、哲也さんのお嬢様が駆けつけて、2人を仲裁。とりあえず、その場はおさまりましたが、お母様は呆然とした表情を浮かべています。
その後のことを哲也さんから伺うと、お母様は哲也さんに対して、完全に心を閉ざしてしまったとのことでした。外出もしなくなり、認知症も進行してしまい、介護施設に入ることに。弁護士に相談して、今後は哲也さん含む3人兄弟で財産を管理することになったそうです。
「健康機器の展示販売場は、あの後、すぐに閉店になったようです。思えばあれは詐欺グループだったのかもしれませんね。母の財産問題が解決してホッとしていたところで、娘から嫌われてしまって。“パパ、ホントにモラハラで相手の気持ちがわからない人なんだね。あの人、おばあちゃんの初恋の人なんだよ、きっと。もっと見守ればよかったのに”と、あれから口をきいてくれないんです」
お金を奪われなくて済んだのが、不幸中の幸いかもしれません。
今回の調査費用は50万円です。
探偵・山村佳子
夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県出身。フェリス女学院大学卒業。大学在学中に、憧れの気持ちから探偵社でアルバイトを始め、調査のイロハを学ぶ。大学卒業後、10年間化粧品メーカーに勤務し、法人営業を担当。地元横浜での調査会社設立に向け、5年間の探偵修業ののち、2013年、リッツ横浜探偵社設立。依頼者様の心に寄り添うカウンセリングと、浮気調査での一歩踏み込んだ証拠撮影で、夫婦問題・恋愛トラブルの解決実績3,000件を突破。リッツ横浜探偵社 http://www.ritztantei.com/