文/鈴木拓也

学習塾を経営していた池田義博さんは、2013年に一念発起して「記憶力日本選手権大会」に出場。初挑戦ながら優勝して、記憶力日本一となった。

その後も、6度出場した大会はいずれも優勝。さらに、ロンドンで開催された世界記憶力選手権では定められた条件を全てクリアし、日本人初の「記憶力グランドマスター」の称号を得た。

現在は、一般社団法人記憶工学研究所の所長として、記憶力強化にかかわる啓発活動に尽力する池田さんだが、「年齢とともに記憶力は落ちる」という通説に疑問を投げかける。

池田さん自身、約1年の準備期間を経て「記憶力日本選手権大会」に初めて出場したのは44歳の頃。はるかに若いライバルを押しのけての優勝であった。

年をとっても記憶力は向上できる

年齢と記憶力の関係について、池田さんは、米・タフツ大学の実験を挙げる。その実験では、18から22歳の若者の群と60から74歳のシニアの群のそれぞれに、単語の記憶力テストが行われた。最初に「これは、ただの心理実験である」と説明したときは、両群の正解率は約50%でほぼ同じであった。ところが、「これは記憶実験で、高齢者のほうが成績が悪い傾向がある」と告知すると、シニアの群だけ正解率が約30%に落ちたという。

この実験結果から、「高齢者は覚えが悪い」という事前の刷り込みが記憶力に影響したと、池田さんは、著書『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』(東洋経済新報社)で説明する。

むしろ、年齢を重ねるほど、ある種の面では記憶力は向上するとも説く。そのキーワードとなるのが、「結晶的知能」と呼ばれるものだ。これは、経験・学習から獲得していく知能のことで、洞察力や創造力などが当てはまり、高齢になってもそう衰えない。この知能を活用することで、何歳になっても記憶力はつくと、池田さんは本書で力説する。

効率的な記憶のカギは「精緻化」

池田さんが本書で教える「A4・1枚記憶法」とは、その結晶的知能を活用したものだ。

資格試験などで、何かを頭に詰め込む際、多くの人は字面を繰り返し読んで覚えようとする。この記憶法は、「維持リハーサル」と呼ばれるが、これは時間がかかる上に非効率的だと、池田さんは指摘している。

採り入れるべきは「精緻化」と呼ぶ方法。これは、「与えられた情報を、そのままの形で覚えるのではなく、個人的な新しい意味付けをしてから頭に入れる方法」だという。これは難しい話ではなく、例えば「鳴くよ(794)うぐいす平安京」といった、語呂合わせによる年号の記憶も精緻化に含まれる。

精緻化は、語呂合わせに限らずいくつかのバリエーションがあるが、それらを集約・改良して池田さん流にアレンジしたのが、「A4・1枚記憶法」。これは文字どおりA4サイズの紙に、記憶したい事柄をルールに基づいて書き記し、折を見て復習することで、しっかり記憶するメソッドだ。

1枚の紙を4分割して書きこむだけ

「A4・1枚記憶法」の詳細は本書に譲り、ここではざっくりとした紹介になってしまうが、「tremendous」という英単語(語義は「すさまじい」)を覚える例を挙げよう。

このメソッドでは、何か覚えたいものがあったときに、それが語呂合わせできるか、何か連想できるかなど、まずチェックする。それによって、「連想型-落書き式」「パターン認識型-共通点式」などと、紙に書く形式が決まる。

「tremendous」だと、発音をカタカナで表記すると「トリメンダス」。これを分解したら意味が与えられそうだと閃いて「鳥、目、出す」となる。さらにイメージ化して、「鳥が、すさまじい勢いで目を出す姿を思い浮かべる」となる。

次に4つに折って開いた(線をつけた)A4サイズの紙に、以下のように書きこんでいく。

左上の枠:tremendousの意味は?
右上の枠:すさまじい、ものすごい
左下の枠:トリメンダス→鳥、目、出す
右下の枠:(目を突き出した鳥の絵)

「うまく作ろう」という気負いや、「絵心がないからと」いった気後れは不要。ひとりよがりな内容でも、その方が「脳に強烈なインパクト」を与えられて、記憶が定着しやすいという。上の例では、1単語の記憶のためにまる1枚使っているが、下例のようにもっとたくさんの記憶したい事柄で埋めてもかまわない。

徳川15将軍を記憶する場合の例(本書057pより)

作成したら、翌日、1週間後、2週間後、4週間後に復習をする。このタイミングは、覚えたことを忘れかける時期と一致し、記憶の強化が効率的にできる。復習の際は、問題だけを見て、あとはノーヒントで答えを思い出すようにする。

基本的な仕組みはシンプルな「A4・1枚記憶法」だが、単に記憶がしやすいというだけにとどまらず、集中力、思考力、行動力などさまざまな脳力の向上にも寄与するという。物覚えが悪いと悩んでいる方は、試してみてはいかがだろうか。

【今日の知力を高める1冊】
『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』

池田義博著
東洋経済新報社

Amazonで商品詳細を見る

楽天市場で商品詳細を見る

文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

ランキング

サライ最新号
2024年
6月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店