1番大切だから、何よりも1番大切にしてほしい
絵麻さんの夫のことを大切にしようという気持ちが日に日に強くなっていく。それだけなら夫は受け止めてくれていたが、その思いに見返りを求めてしまい、思うような反応がなかったときには絵麻さんの気持ちはありもしない夫の浮気疑惑にまで発展していった。
「私は正社員の仕事を見つけて、働きながらも家事を完璧にしようと頑張りました。朝晩のご飯はもちろん、お昼にも栄養を意識したお弁当を用意して、2人で出来る限り長生きできるように、徹底的に夫の健康面の管理を始めました。夫はいつも『ありがとう』と言葉にはしてくれていたし、ちゃんと残さずに食べてくれましたが、それだけでした。私のために何かしてくれるということを感じられず、そこから“もしかしたら私の他に尽くしている人がいるのでは”と思う気持ちが出てきてしまったんです……」
絵麻さんは携帯、友人関係の監視など、夫のすべての行動を把握しようとした。そこから、夫婦の仲はおかしくなっていったという。
「毎週金曜日には決まってはいないものの、2人で晩酌をしながら夫婦生活を持っていたんですが、それが一度でもないと夫を質問攻めにしてしまっていました。『なぜ女として見てくれない』とまで言ってしまっていましたね。これはすべて夫に愛情があるからこその行動でした。その思いが強くなると、夫の行動を把握したいという思いの他に、自分の行動も監視してほしいという気持ちも強まっていきました。私のことが好きなら、興味があるなら気になるはずだと。夫が私の行動を聞いてこないことにもイライラしてしまっていました。
挙句の果てには、夫の携帯にGPSを入れて監視までして……、行き過ぎた自分の行動に疲れてしまい、私も夫も笑顔で向き合うことができなくなっていました。
夫とは今、1日の予定を言い合うことが朝の決まりになっているんですが、会話はその朝だけです」
絵麻さんの場合、30歳手前での上京ということもあり、周囲に知り合いがまったくいない結婚生活となったことで夫に対する依存が強くなったことが考えられる。人生100年時代を考えると、夫婦の時間は50年以上続くことになる。絵麻さんからは「自分の束縛行動に疲れる」という言葉はあったが、「変わりたい」という言葉はなかった。絵麻さんが変わらなければ、夫婦の信頼関係をここから築くことは難しいだろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。