「僕だけのお母さんだったのに」

男性を追うと、池袋駅からバスで30分ほどの下町エリアにある公営住宅。所得が高くない人が住む住居です。それから男性について調べると、交通関連会社に勤務していましたが、父親はアルコール依存症で浪費した上に10年前に死去していました。残された母は父の死後から3年で認知症を発症。今は関東近郊の特別養護老人ホームに入っているとのこと。男性は労働組合活動に力を入れており、会社から冷遇されていたそうです。定年後の今は、清掃や警備のアルバイトをしつつ、後輩に向けて勉強会を開き、会社との交渉の仕方などを話し合う会を開いていました。

近所で聞き込みをしたのですが、「本当に優しくて、いい息子さんなのよ」と近くに住む人は、口をそろえて言っていたのです。母とこの男性の共通点は、家族のために生きてきたこと。そこで強く惹かれあったのではないでしょうか。

以上を依頼者・昇さんに報告すると「なんだこの男は!」と激怒していました。報告書をめくるたびに険しい顔になり、母のキスシーンになると、「親のこんな姿は見たくなかった」と顔を手で覆っていました。息子にとって母親は性的な領域から遠く外れた存在なので、嫌悪感と忌避感が強かったのでしょう。そして、「僕だけのお母さんだったのに……」と泣いていました。

昇さんは「こいつはこんな家だから、ウチに転がり込むに違いない。絶対に金目当てだ!」と憤り、男性について調べたそうですが、特にそういう様子もなかったそうです。その頃には冷静になっており、母に「なぜ結婚するのか」を聞く余裕もできたそう。

「母は男性と同居を望んでいましたが、僕が買ったマンションに男性を入れるわけにはいかない。男性の家は一等親以内の親族しか住むことができないので、結婚すると言い出したのです」

そこで、昇さんは「僕が出るから、お母さんと彼氏と一緒にここに住みなよ。そろそろ僕も独立しないと」と提案したところ、母は涙を流して喜んだそうです。

「まあ、相手の男が母より長生きする可能性はありますが、そしたらその時で面倒を見ると言いましたよ。母があれだけ喜ぶのは、僕が大学を卒業した時以来です。母は大学の卒業式で、人目をはばからずに嗚咽していました。ことあるごとに、“あんたは親孝行よ。大学まで出て、あの卒業式のことを思い出すだけで泣いちゃうもん”と言っていましたから。正直、複雑な気分ですが、よしとします。相手の男も優しい人ですし」

昇さん自身は、結婚願望はないそうです。それには司法書士として、不動産と相続関連の案件を扱ってきたからだといいます。

「夫婦も子供も親族がいればいればいるほどお金でモメます。お金は人をおかしくさせるのです。親は“ウチの子は喧嘩なんかしない”とタカをくくっていますが、きょうだい間の遺産分割がこじれにこじれ、最終的にはトイレットペーパー1個の権利を争って大ゲンカする例を見ていますからね。結婚も子供も災いの種。母があの男と入籍したら、貯金の配分などでモメるのは目に見えています。他人だから感謝できるんですよ」

高齢になってから入籍すると、財産分与や介護、入院時の身元保証人になる、延命措置の決断ほか、“家族”に求められる決断が増えることも多い。亡くなれば遺体引き取りや葬儀、火葬、埋葬、相続手続きなど、すべきことはたくさんあります。それを引き受ける覚悟がないまま入籍し、子供に負担をかけている人が増えているのだとか。結婚(入籍)から派生する問題は多く、将来のことを考えてから大切なことは決めなければならないと感じました。

探偵・山村佳子
夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県出身。フェリス女学院大学卒業。大学在学中に、憧れの気持ちから探偵社でアルバイトを始め、調査のイロハを学ぶ。大学卒業後、10年間化粧品メーカーに勤務し、法人営業を担当。地元横浜での調査会社設立に向け、5年間の探偵修業ののち、2013年、リッツ横浜探偵社設立。依頼者様の心に寄り添うカウンセリングと、浮気調査での一歩踏み込んだ証拠撮影で、夫婦問題・恋愛トラブルの解決実績3,000件を突破。リッツ横浜探偵社 http://www.ritztantei.com/

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