取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻と突然の別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
お話を伺った、文明さん(仮名・62歳・介護施設職員)は2年前に結婚30年の妻が突然失踪した。文明さんは家事育児の一切を妻に丸投げしてきた。
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男は「我が子」という確信が持てない
「家事も子育ても一切したことがなかった。子供はかわいいとは思いましたが、なんでしょうね……男は女性と違って、“自分の子供”という確信が持てないものだと思います」
子供が生まれてから、ますます仕事に邁進した。そんな文明さんを気遣い、妻は子供の成長を写真に撮っては、報告してきた。
「タッチ(赤ちゃんが立つ)とかアンヨ(赤ちゃんが歩く)とか、3回くらいまでは聞きましたが、興味が持てないんですよ。ある日『結論がない話はしないで欲しい』と妻に怒鳴ってしまった。その後、一切子供の話はしなくなり、気が付けば娘も息子も大学を出ていました。自分としては、家族に欲しいものを買ってやり、いい生活をさせて、殴ったり叩いたりすることはなかった。いい父親だと思いますよ」
文明さんが55歳の時に、娘が大学を卒業し就職。妻と二人だけになる。その頃に、会社の業績に黒雲が漂い始める。
「仕事量が減り、18時30分には家に帰るようになりました。今まで妻と一緒にいてやれなかったから、喜ぶかと思っていたら、残念そうな顔をしたんです。だから『俺のメシは気にするな』と言っても、シチューやカレー、ハンバーグなんかを作る。私はあまり洋食が好きではないので、自分でイワシの梅煮を作ったら、妻が泣きながら怒ってくる。まったく理解ができなかった」
その後、奥様は和食を作るようになったという。食卓の会話はほとんどなく、テレビだけが流れていた。18時30分に帰ってきても、文明さんが家事をすることはなかった。
「洗濯、掃除、ワイシャツのクリーニング出しをやったんです。すると『あなたがやるとさらに汚くなる』とか『ワイシャツはポイントが2倍の日に出している』などと怒られて、やる気がなくなってしまった。その頃には、私もすっかりヘソを曲げていたと思います」
文明さんが定年退職した日、それでも妻への感謝を込めて、花束を購入して家に帰ってきたら、テーブルの上に記入済みの離婚届が置いてあった。離婚の証人は見知らぬ女性が名を連ねていた。
【子供に連絡しようとしても、携帯電話の番号さえわからない。次ページに続きます】