よかれと思った宅配弁当がきっかけに
宅配弁当を注文してから2週間ほどで夫の叔父からクレームの電話がかかってきたという。
「『手料理から宅配弁当になって、このままだと実の息子に捨てられる』と義父は言っていたみたいで、不憫に思った夫の叔父から夫に抗議がありました。そのときはお互いの仕事が忙しくて週末に行けてなかったこともあって、それも言われたと夫は私に愚痴ってきました。
私たちからしたらあれだけしていたのに、という思いですよ。それだけでもすごいストレスでしたが、このときは義父から直接じゃなかっただけ、まだマシだったのかもしれません……」
義父の要求は徐々にエスカレート。叔父を通してではなく、義父本人からの要求に変わってからがストレスの連続だったと愛莉さんは悲痛な顔を浮かべながら語る。
「『床にこぼしてしまったから掃除に来い』、『〇〇が足りないから買ってきてくれ』など、週に二度ぐらいのペースで私たちを呼びつけるようになりました。緊急事態宣言が出ていてもおかまいなし。『放って置かれるほうが病気になる』と脅してきます。
さらに、義父は定年後に嘱託社員として働いていたのですが1年単位の契約で満了時に退職し、それから連絡してくる頻度はさらに酷くなりました。義父はそうでも、夫と私は仕事をしているんです。『まだ(愛莉さん夫婦の家に)呼び寄せてももらえない』『捨てられる』と周囲に愚痴っているそうです」
夫と再び義父との同居について話し合ったときには愛莉さんに歩み寄れる気持ちは残っていなかった。現在も話し合いを続けながら、夫と交代で義父の家に通う日々だという。
「私は一人で生活できるギリギリまでそのまま暮らしてもらい、もし介助などが必要になった場合には外部の力を借りること、施設も仕方ないと思っています。夫はとりあえず引き取ってから考えようと、今の面倒をとりあえずなくしたいみたいです。そんなのだから、私たちの話し合いは平行線のまま。私から言わせてもらうと、別居から同居にしたからって解消される煩わしさではないですから」
男性は女性に比べて中年以降から友人関係は希薄になる人が多く、老後の孤独を抱える男性を取り上げる記事もよく見かける。
愛莉さんの義父が頼れるのは一人息子の夫婦しかなく、義母を失った喪失感を埋めようとしているように感じる。「一人で大丈夫だ」と言っていた頃の義父は見る影もなくなったが、あの意地のせいで今がこじれてしまっているのは間違いないだろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。