プラチナチケットを、夫に渡し、観に行っていた

夫と親友・麻美さんが仲良くなるのはうれしかった。3人で話す時間はかけがえのないものだった。

「そのうち、夫と麻美さんがアイコンタクトをとるようになったんです。あまり気にしていなかったのですが、年末にふらっと銀座に行ったときに、夫と麻美さんが手を繋いで歩いていた瞬間を見ました。私はバスだったので確信は持てませんでした。すぐに夫にLINEをすると、“俺は打ち合わせの最中だよ~ん”と自撮りの画像が来たのです」

見間違いにしては似ていた。年が明けてからの出社で、会社の同僚から「絹子さんのご主人が、キレイな女性とキスしていた」と言われる。

「同僚は夫婦で江ノ島に行ったそうです。そのとき、恋愛のパワースポットで夫と麻美さんと思しき人がキスしていたと。夫は背が高く特徴的なヘアスタイルをしており、目立つんです」

夫に聞くと「考えすぎだよ。俺みたいなおじいちゃんが、麻美さんとどうこうってのはないよ」と笑っていた。

「まあ、それが後に嘘だとわかるんですけれどね。麻美さんは“人のものを奪いたくなる”性癖だと言っていました。私の夫が、自分に夢中になるのが楽しかったそうです。当然、私は激怒し、絶交しましたけれど。これから一生、親友でいてくれる人だと思っていたので、ショックで寝込みました」

絹子さんにとって、夫は絶対に逃げない人だから「隣にいて当たり前」なのだ。そのほかの「去っていくかもしれない人々」を繋ぎとめ、根源的な孤独を埋めたい。

「まさか麻美さんが夫まで狙うというのは、驚きましたけれどね。しかも銀座のデートで30万円のペンダントをプレゼントしたそうです。呆れました。でも寝込むほどショックを受けたのは、私達が推している俳優のトークショーの当選チケットを、夫に渡したことなんです。正直、その俳優に、全く興味がない夫に、あの超プラチナチケットを渡していた。それがホントにショックでした」

なぜ、自分ではなく、夫を優先したのか。麻美さんにしてみれば、夫をデートに誘う口実なのだろうが、絹子さんは真剣に推し活をしていた。その真面目さゆえに、チケットが当たらない自分の不運を真剣に反省するとともに、心から行きたいと考えていたのだ。

「だから、麻美さんは私をこれ以上ない方法で、傷つけたしバカにしたと思っています。今まで夫とは何があっても離婚しなかったのですが、今度は別物です。そのことを伝えたら“たかがチケットだろう”と言いやがったんです。夫が麻美さんに“俺じゃなくて絹子を誘って”と言えばよかったのに」

推し活仲間に聞くと、当選倍率は200を超えたという。そんなトークショーを絹子さんではなく、夫を誘ったという恨みは、心に残った。

「行けない、とわかると、行きたくなるんです。私はもしそのチケットを譲ってもらえるなら20万円は出そうと思っていた。そのくらい貴重なんです。それなのに2人は私をないがしろにした。それを知ってから夫とは一切の口を聞いていません。話しかけられるとモノを投げて返事しています。もう、夫婦も終わりでしょうね。向こうから離婚を言ってきたら、夫の婚外子の事実もあるので、慰謝料をもらいますけど」

絹子さんは推しの俳優に会ったことがないという。それなのに深く愛してしまった。それがバブル世代を具現するDINKS夫婦に亀裂を走らせたとは、当の俳優のあずかり知らぬところだろう。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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