思わぬ自粛生活で、“リタイア後の生活” を先行体験
西野さん本人によれば、サーフィン後に帰宅しシャワーを浴びたあとは、午前中パソコンをいじって仕事は終了。午後はぼんやり、早期退職後のことを考えているのだそうだ。多忙な妻に代わって食事を作る日も増えてきた。
「サボっているわけじゃない。実際の仕事がそれほど忙しくないのに、リモートになった途端忙しくなるわけないじゃないですか。忙しい妻から見れば、私はサーフィンしてぼーっとしているだけのように映るんでしょう。でも、私なりにいろいろ考えているんですよ。その“いろいろ”が、新型コロナのせいで、本当にはじけ飛んじゃったんですけどね。50代での再就職ってただでさえキツイのに、超就職難になっちゃいました」
そんな夫の胸の内を知ってか知らずか、奈々子さんは母親のような気持ちで再起を望んでいる。
「ご飯を作ってくれるのはありがたいですよ。でも主人はまだ若いし専門知識があるので、本当に早期退職する気なら、本気で調べたり先輩に相談したり、もっと必死になってほしいんです。なのに、新しい職場が気に入らないからって『僕はどうせ役立たずだ』みたいなことを言っていじけてるだけ。深刻なコロナ鬱になるよりいいと思えばいいのかもしれませんけど、いつまでも海で黄昏れられても困るんです」
一方の西野さんも、このままでいいと思っているわけではない。
「コロナ禍は想定外でしたけど、私は、定年後の生活ってこんな感じかなぁ、と初めて具体的に考えました。でもやっぱり、今シニアサーファーの仲間入りをするのはちょっと早いですよね。給料がガクンと減って不満はありますけど、お金は必要ですから働き続けようと思います。今の会社にいるにせよ早期退職するにせよ、何かしら役に立つ存在でいたいです」
西野夫妻は、思わぬ自粛生活で、“リタイア後の生活” を先行体験したような気になったという。リタイア生活について今までまったく話し合ってこなかったことにも気付いた。
今後はもう少し率直に話し合い、理想と現実の境を見極めていきたいそうだ。
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。
