男女関係には潔癖だった夫は、順調に出世する

夫は順調に出世をした。お金と男女関係に潔癖で、勤勉で柔軟性があり視野が広い。夫の実家が経営している会社は、弟が継いだ。有希さんの実家の会社は、妹夫婦が継いだ。

「親が育ててきたものを、受け継がなかった心の傷のようなものも共有できる夫婦ですし、夫も私も浮気をしないので、順風満帆だったんですよ。ただ、息子が一時的に家出をしたり、娘が大学進学をしなかったときは、もめましたけれどね」

結婚から27年、おおむね穏やかに過ごしてきた夫婦に亀裂が走ったのは、有希さんが「助けたい」と強く思った鈴子さんが現れてからだ。

「彼女は公立中学で同じクラスだった時から目立っていました。なんというか発光しているような感じ。あまりにも可愛いから、男の子もおじけづくようなレベルなんです。芸能界から目をつけられるだけあって、54歳でも十分美しいんです。私は話題のグレイヘアにして、自分の老いを受け入れて、穏やかに生きているけれど、鈴ちゃんはバリバリの現役。白髪をきっちり染めて、胸を盛り上げるように補正下着をつけています」

女として現役でありたいと、加齢に抗うタイプの女性だ。当然、美容費もかさみ、借金こそないが貯金ゼロのまま裕福でない実家に居候することになる。

「約40年ぶりに近所のスーパーでバッタリ会ったときも、すぐにわかりました。白くて細くて顔が小さくて……喫煙ブースでタバコを吸っていたのですが、目立っていたもの」

だからこそ、着ているものが薄汚れており、すさんだ雰囲気をまとっていたことに「何とかしなくちゃ」と思い、家に誘う。

「芸能界で大変な目に遭い、悪い男にだまされて来たこれまでの人生を聞き、定職に就くサポートをしたいと思ったんです。実家の会社も人手不足だけれど、PC操作ができなければ仕事にならないので、教えることにしたんです」

最初こそ、鈴子さんは「おもしろい~」と学んでいたが、難しくなると飽き、サボるようになる。

「この飽きっぽさが鈴ちゃんの人生を転落させていったんだな……って思ったんです。私はこれまでの活動で、必要ないという人に“絶対にこれはやってください”とお願いし続ける活動をしてきました。例えば“振り込め詐欺には絶対に引っかからない”と思い込んでる人に、“それは詐欺ですから、振り込まないで”と言うことなど。杖で叩かれたこともありましたし、感謝もされないのですが、世の中全体を考えれば、私がやった方がいい。鈴ちゃんがPCスキルを学ぶことも、それと同じなのです」

【貯金ゼロの元アイドルにPC操作のスキルを教えるために、夫が手助けをするも……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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