文/鈴木拓也
昨年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法により、定年制を導入している企業に対し「70歳までの就業確保」が努力義務として課された。
しかし、今の会社で70歳まで勤めあげることに確信を持てる人はどれほどいるだろうか。
むしろ、今後は「セカンドキャリア」の可能性を模索し、もしもの場合に備える人の方が多いように思う。
50代からでは遅すぎる
セカンドキャリアといえば、かつては「定年退職を迎えてから、のんびり考えて就く職業」というイメージがあったが、いまやそれでは遅いようだ。
状況によっては、42歳でキャリアプランを検討し始め、45歳にはセカンドキャリアを構築すべし―そう説くのは『42歳から始める セカンドキャリア構築術』の著者・谷所健一郎さんだ。
なぜ、50代、60代でなく40代なのか? その理由として、谷所さんはこう述べている。
転職市場では、35歳くらいまでの人を採用する企業が多いですが、40代半ばで企業が求める人材とマッチングすれば、採用に繋がるチャンスはあります。採用担当者は、50代以降の求職者なら、数年間しか勤務できない求職者だと考えますが、40代であれば30代とそれほど隔たりなく、自社で今後長く貢献してくれる人材として採用を検討します。(本書より)
これは転職の話だが、独立開業する場合も同じだ。40代のうちに独立したほうが軌道に乗りやすく、たとえ失敗しても「充分リベンジ」できる。いずれにしても、60歳から70歳までの未来を見据えて実行に移すことが肝要だとも。
まず自分の能力を見極める
今の勤め先への危機感から、あるいはステップアップのために次の一手を思い描いてはいても、具体的に何をすればよいかわからないかもしれない。
そんな人のために、谷所さんは「今やるべき5つのステップ」を挙げる。
その1つに、「能力を見極める」というのがある。
「はて、自分の能力はなんだろう?」となってしまう人が多いかもしれない。しかし、これを把握しないと、今後の方向性も決まりがたい。
そのために、職務経歴の棚卸とアピールポイントの整理がすすめられている。
アピールポイントを知るために例えば、「5名以上の部下を統率している」「部下の能力を引き出し、成果をあげている」「部門の予算管理、目標管理を的確に遂行できる」という設問があり、「はい」、「どちらでもない」、「いいえ」に応じて加点していく。本書にはそうした質問群がいくつかあり、得点の高いものがあれば、それがアピールポイントになる。このように、他社に移っても通用するスキル・強みを明確にする作業を行う。
言うまでもなく、採用担当者が中高年の転職者に求めているのは、潜在能力ではなく、経験に基づく即戦力だ。特に職種で募集するジョブ型雇用が増えているので、「スペシャリストとして発揮できる能力」を、きちんとあぶり出しておく。
ほかのステップとして「情報をリサーチする」「方向性を考える」などある。今の会社に留まるか転職するかにかかわらず外せない手順なので、しっかりやっておきたい。
今の会社で確かな実績を積んでいる人なら、転職も容易だと考えるかもしれない。
しかし、谷所さんは、「中高年の転職は思っている以上に厳しい現実」があると指摘する。
ただそれは、単に「年齢が高いから」ではないそうだ。
問題は1つには、「応募企業で何ができるかという点のアピールが不足している」から。先に紹介した「今やるべき5つのステップ」でも、アピールポイントの重要性が強調されていたが、それとは別に「謙遜してアピールしようとしない」人もいるという。
また、こんな場合も。
応募企業を良くしていきたいという意欲に欠け、現職が思うようにいかないから転職するという意欲のない応募者もいます。過去がどうであれ、現在の職務能力や経験を生かして会社に貢献してもらいたいと企業は考えていますが、若さがなく惰性で仕事を行うような姿勢では、採用したいとは思いません。(本書より)
そのほか、給与面で折り合わない、既存社員と馴染めない可能性など、採る側にとっては、中高年の採用に懸念は多い。
だからといって、ダメ元感覚で面接に臨めば、その気持ちは「表情や態度に表れます」と、谷所さんは忠告する。
必要なのは「自信」。「中高年だからこそ企業貢献できる」と自信を見せれば、転職活動を有利に運ぶことができるという。
中高年の独立は60歳になる前に
中高年の場合、転職ではなく経験を生かして独立というセカンドキャリアもある。
定年退職後、好きだった蕎麦打ちを極めて蕎麦屋を開業したといったような話は、身近でもよく聞く。
これに対し谷所さんは、何をやるのであれ独立開業は、「60歳を待たずに行うべき」だと記す。この年代に始めて、失敗したらリカバリーができないからだ。
反面、定年を気にせず生涯現役を貫ける、収入が増える可能性がある、自己責任において決断できるやりがいというメリットがある。また、「地域密着型の靴や鞄のリペア、テイクアウト専門の飲食店、結婚相談所といった人と触れ合うビジネス」が、既存企業と差別化でき、ビジネスチャンスがあるとも。
リスクが少なさそうと、フランチャイズも視野に入るかもしれない。谷所さん自身も、最初の独立では、パソコンスクールのフランチャイズに加盟して一旗あげている。が、開業から2ケ月間は売上がゼロ。借金が膨らんだ挙句、半年でフランチャイズ企業が倒産という憂き目に遭う。
そこから復活を遂げられたのは、まだ40代だったからと、谷所さんは述懐する。もちろん、フランチャイズで成功する人もいるが、「誰でも成功できる保証はないと自覚」して取り組むべきだと諭す。
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最近、「不確実性の時代」という言葉をよく見かけるが、個々人の職業人生もその例外ではない。「ウチは70歳定年だから」と安心していて、減給や降格、あるいはリストラのターゲットになったときに、切り抜ける自信はあるだろうか。その意味でも、セカンドキャリアを計画しておく意義は大きい。そのための手引きとして、本書は有用な1冊となるはずだ。
【今日の人生計画に役立つ1冊】
『42歳から始める セカンドキャリア構築術』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。