「コロナ禍、大規模金融緩和により日米欧で刷り散らかされたマネーはおよそ1600兆円。あり余る巨大マネーが投資先を求めて日本に押し寄せ、史上最大の資産バブルとなることが予想されます。そして、この巨大バブルがきっかけとなり、金融グレート・リセットなどの大きな時代の転換期がやってきます。現在はFRBの利上げの影響などで日米ともに株価が落ち込んでいるが、何かのタイミングをきっかけに急上昇する可能性が高い」と説く、不動産コンサルタント・長嶋 修氏の著書『バブル再び 日経平均株価が4万円を超える日』から、大きな変化を見せる政治、経済、金融市場の動向についてご紹介します。

文/長嶋 修

給与は頭打ち、社会的不安がある中でも資産価格は上昇している

「これから1990年を超える資産バブルが到来する可能性がある」「その資産バブルを伴いつつ、政治経済金融、あるいは天災地変など、2020年以降大きな社会変革の波がやってくる」

2019年春にスタートした筆者のYouTube上でこうした主張を始めた時、多くの視聴者から「そんなはずがない」「適当なことを言うな」との批判、お叱りコメントをいただいたものです。

気持ちはよくわかるのです。私たち人間には常に「正常性バイアス」(楽観主義バイアス)が働いています。

「正常性バイアス」とは、人間が予期・想定しない事態に対峙したとき「ありえない」という先入観や偏見(バイアス)が作動し、物事をあくまで正常の範囲だと認識する心の働き(メカニズム)のこと。また「テレビや新聞がこう言っている」「周りのみんながこう言っている」「だからそうに違いない」といった「多数派同調バイアス」もあります。したがって本書が主張する「資産バブルが引き金となり、これから大変革の時代がやってくる」といった論はいかにも聞き慣れない感じがあり、反発も多いのです。

1980年代後半の日本は、戦後の高度経済成長が終わった感がある中、1985年のプラザ合意によって円高不況が叫ばれていたところ、低金利・金融緩和・原油安といった条件の下であのバブルが、それも日本だけが独歩高のような形で進展していきました。

世の中がバブルあるいは好景気を認識しだすのは1988年くらいからで、浮かれまくっていたのはそこからバブル崩壊した2年後の1992年くらいまで。ワンレンボディコンの女性たちが、羽根付き扇子を振り回す動画など、バブルの象徴として有名なディスコ「ジュリアナ東京」「ヴェルファーレ」などは1991年以降にできたものです。

バブル崩壊以降「失われたウン十年」を過ごしてきた日本ですが、リーマン・ショック(2008年)前のプチバブルとその崩壊や、東日本大震災(2011年)を乗り越え、2012年の民主党から自民党への政権交代以降、日経平均株価が1万円弱から2万円を超えるなど、ものすごい勢いで上昇してきたのと同様、不動産も「都心」「駅前・駅近・駅直結」「大規模」「タワー」といったワードに代表されるような物件を中心として、猛烈な資産価格上昇が発生しました。

一方で給与所得は一向に上がらずどこまでいっても頭打ち。「令和2年分民間給与実態統計調査」(国税庁)によると2020年12月末日時点の平均給与は433万1000円で前年比マイナス3万3000円と0.8%減少しています。

非正規労働者比率や高齢労働者比率が上がったことも手伝って、長期的に見ても頭打ちどころかマイナス感すらあり、加えて消費増税や社会保障費の増大といった中において「景気回復実感なき資産価格上昇」とでも言える株価や不動産をはじめとする資産価格の上昇は、感覚的にも実感と合わず、また納得もいかないという向きも多いはずです。

「持てる者」と「持たざる者」とでもいうような格差。「1%vs99%」と言われるアメリカなど他の先進国に比べればまだマシなほうだと思われる我が国におけるこうした格差も、1990年バブル崩壊以降広がり続ける傾向にあります。「正規労働者vs非正規労働者」「無能な中年会社員vs報われない若手社員」といったカテゴリによる社会的な分断も見られます。

筆者ももちろん、現在のこうしたアンバランスな状況について、決してよしとはしていません。最近目にするようになった「資本主義は限界に来ているのではないか」「民主主義が機能しなくなっているのでは」との論調も、その通りだろうと賛同します。

資本主義はとりわけ1760年代にイギリスで起きた産業革命以降、人々の生活を劇的に向上させました。ところが昨今は様々な意味でほころびも見え、富の分配の不備から生じる格差拡大や、膨れ上がる金融市場が資産市場や実体経済にまで大きく影響を与えるなど、社会構造の脆弱性を孕む事態ともなっています。

また昨今ではAI化やロボット化の進展は著しく、コンピュータの性能は幾何級数的に進化しています。例えばスーパーコンピュータ「京」は2012年6月に生まれましたが、その100倍の性能を持つ「富岳」が2021年に誕生。大量のデータ処理が可能になっています。10年もしないうちにこれほど進化するなら、さらに5年後、10年後はどうなっていて、私たちの生活をどう変えるのでしょうか。現在ではスーパーコンピュータなど従来の「ノイマン型コンピュータ」とは比較にならない潜在力を秘めた「量子コンピュータ」の開発も進んでいます。

2020年からのコロナ禍や、2019年の台風15 号・19号に代表される水害や各地で予想される大規模地震など地球環境問題の社会的課題にもさらされている上、多数の不安要素・不確定要素を抱えつつ、このままではあらゆる点で持続可能ではないのが明らかであるなか、はたして未来はどうなるのだろうか? 私たちの暮らしはどうなるのだろうかといった漠然とした不安を、多くの人が持っているのではないでしょうか。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
1967年東京都生まれ。不動産コンサルタント。さくら事務所会長。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会初代理事長。国交省・経済省の様々な委員を歴任。2019年より始めたチャンネル『長嶋 修の不動産経済の展開を読む』(現在は『長嶋 修の日本と世界を読む』に改題)では不動産だけではなく、国内外の政治、経済、金融、歴史などについても解説。広範な知識と深い洞察に基づいた的確な見立てが注目を集めている。テレビ出演、講演等実績多数。著書に『不動産格差』(日経新聞出版)など多数。

 

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