裏に住む小学生の子が『静かにしてください』
「早朝から日が暮れるまでガリガリ木を切ったりするもんだから、うるさいんですよ。植木職人なら1日で終えるところを、3日も4日も続けるし、いつ終わるんだろうって、誰だって気になりますよね。私も注意したんですけど、本人は夢中になっちゃって、お構いなし。そしたらとうとう、裏に住む小学生の子に『静かにしてください』って言われちゃったんですよ」(加奈さん)
晴人さん自身は、いまだに不満げだ。
「『こんにちは』とか挨拶するならともかく、『静かにしてください』だって。子供のくせに、大人に向かって注文つけるなんて、生意気だと思いませんか?」
その後、音が出る作業は9時から15時と決めたものの、ほどなく別のクレームを受け、加奈さんは慌てた。原因は、庭から立ち上る煙だ。
「仲良くしているご近所の奥さんが、私の勤め先の薬局に来たとき、『ご主人、焚き火しているんじゃない?』って教えてくれたんです。私、昼間は家にいないし、全然気づかなくって……」(加奈さん)
これにはもちろん、晴人さんは反論する。
「焚き火ってほど大げさなものじゃないんですよ。一斗缶でちょっと落ち葉を燃やしただけ。少量の落ち葉を燃やすくらいなら市でも認めているんだから、問題ないんですよ。お隣さんだって『ご主人、精が出ますね』なんて言ってたくらいなんだから」
加奈さんはため息をつきながら、夫の鈍感力を嘆く。
「わざわざ声をかけるなんて、よっぽど『迷惑だ』って言いたかったんでしょう。ポジティブというか、暢気というか……。しばらくの間、ご近所の方に会うと条件反射のように『主人がご迷惑をおかけしてすみません』って謝りましたよ」
焚き火問題に終止符を打ったのは、長女の陽菜さん(仮名・35歳)だ。結婚して家を出ている陽菜さんは、実家を訪れた際に一連の話を聞き、こう言い放ったそうだ。
「お父さん、ただのトラブルメーカーじゃん」
このひと言は、さすがに晴人さんの心に突き刺さった。
【~その2~に続きます。】
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。