みんな優しかったのに、感情をうまく表現できなかった

4人での生活を続ける中で祖父が病気になり、入退院を繰り返すことに。次第に祖母は祖父の面倒で付きっきりになり、美穂さんは母親と行動を共にすることが多くなっていきます。

「母親は働いていたと思っていました。外出して帰って来ないときは仕事だろうと。心配は特にしていませんでした。私には祖父母がいたし、家があるから絶対に母は帰ってくると思っていたし。

祖父が体を悪くしてからは、誰もいない1人ぼっちの家に帰りたくなくて、家の周辺をウロウロしていたんですが、そのことを近所の人から祖母にリークされてしまって。その結果、母親が学校から帰って来たら一緒にいてくれることになりました。母親は私が帰ってくると、すぐに出かけました。もちろん私もその後を追いかけて。行き先はパチンコ屋です。母親は働いてなかったんですよ(苦笑)。今は知らないけれど当時は子どもも普通に入れて、隣の席でじっと母親がスロットを打つのを見ていました。ときどき知らないおじさんがお菓子をくれたりするんですよ。うるさかったけどクーラーもきいていたから意外と居心地は良かったんですよね」

小学校5年生のときに祖父が他界。葬儀では固くなった祖父の体と、悲しくも気丈に振る舞っていた祖母の姿を覚えていると言います。

「祖父は寡黙な人だったけど私に向けてくるのは笑顔でした。だから好きだったんですけど、お葬式では泣けなくて。最後に葬儀の方が祖父の体を洗っていたんですが、体を少し動かすだけで男性が2人がかりでもとても大変そうでした。私はそれを見て、もうそんなに固くなってしまっているんだってぼんやりと思うことしかできなくて。葬儀では目を腫らした祖母がいましたが、泣いているところは見ていません。その他の人、母親も含めて祖母以外は覚えていなくて……」

祖母への信頼が強くなっていくにつれて、祖母の老いを感じる度に不安に襲われていきます。母親と2人きりの生活には戻りたくない。そう思った美穂さんは大人になることを急ぎます。

~その2~に続きます】

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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