恋愛をする気持ちがないと言えばウソになる
「あの会に参加するまでは、酒は接待の席で我慢して飲むものだったんだ。あの会に行って驚いたのは女の人が大酒飲んで、俺と話して楽しそうに笑っていること。そのときに、心から安らいだんだよね。仕事や家族と離れて、“身元の知れた女性”と飲むことが“楽しい”んだって」
この日本酒の会は、SNSの“友達”しか参加できない。主催者は物心共に豊かで、心が自由で朗らかな人しか声をかけていない。かつて保険や宗教の勧誘をした者もいたが、知らない間に顔を見なくなった。毎回15人程度の集まりで、程よい距離感で飲むことができる。
この会で高橋さんは、運命的な出会いをする。親から譲られた小さな輸入会社を経営している59歳のバツイチ女性だ。美人ではないが、しっとりと優しい雰囲気をまとい、上品なワンピースをゆったりと着こなしている物静かな女性だ。
「恋愛をする気持ちがないと言えばウソになる。いろいろあったけれど、結局結婚してから女房しか知らないわけだから。生々しい話、まさか自分が女房以外の女性とそういう関係になると思わなかったよね。同年代っていいんだよ。“肌が合う”だけでなく“心が合う”。例えば、埴谷雄高、高橋和巳、大江健三郎、三島由紀夫……あの当時の学生ならだれでも読んでいた作家とその作品の話、タルコフスキー、ヴィスコンティ、ゴダールなどの映画の話、チェット・ベイカー、コルトレーン、マイルス・デイビスなどジャズの話……なんでもすぐにわかる。他の世代にも詳しい人はいるよ。でもあの時代のホコリ臭い饐えたような臭い、もうもうとしたタバコの煙、化学調味料の味しかしないチャーハンの味……そんなものを共有できる相手ってなかなかいないんだ」
運命の女性に会ってから、高橋さんはどう関係を深めていったのか……
【~その2~へ続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。