悪役を買って出た父親に、母親への深い愛情を見た
母親の態度は意外な反応だったと言います。
「母親は『揉める種になるだけだからやめてほしい』と言ってきました。一緒に暮らしているのだから和やかに過ごしたいと。
母の思いを聞いてからは何かを言うのではなく、妹と協力して、週に一度くらいのペースで無理やりにでも実家で過ごす時間を作りました。実際に家で見たのは、掃除や、兄家族の洗濯まで母親一人が働く姿。その姿を見て、どうしても我慢できなかった僕は父親に何とかしてほしいと頼んだんです。結果、父親を含めて家族全員で話し合う時間を作ることになりました」
話し合いで感じたのは兄夫婦の身勝手さ。そこから普段何事にも黙認続ける父親の一言で一気に事態は思わぬ方向に進みます。
「兄も義姉も『家族だから』という枕詞を使って、自分たちを正当化するばかり。でも、ずっと実家に寄りつかなかった自分がどこまで言っていいものなのかの葛藤や、怒りに任せてぶちまけると母親が悲しむだろうという思いもあり、何もできなくて。そんな感じで鬱々としていたら、父親が兄夫婦に向かって、『出て行きなさい』と言ったんですよ。普段は我関せずだった父親が、初めて大きく見えたというか、本当に『お父さん!』という感じでしたね」
その後、父親に一刀両断された兄夫婦は1か月後に実家を出て行ったそう。しかし、孫については月に数回のペースで預かっているとのこと。
「孫と疎遠にならなかったのは母親が歩み寄ったからなんですが、そんな母親は『お父さんが悪役を買って出てくれた』と言っています。振り返るとうちの両親はずっと仲が良いんです。両親ともに子供の前ではどちらかの悪口を言うことは一度もなかった。子供とあまり関わりを持たない父親を軽視していたこともあったけど、あれ以来かっこよく見えています」と笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。