取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
* * *
原田直子さん(仮名・70歳)は、暴力的ですぐにキレる娘(35歳)に手を焼いている。そのため、夫(72歳)は娘と顔を合わせないために、夜勤の警備員の仕事をしており、1人暮らしを本気で考えているという。そこまで追い詰められた原因は何なのだろうか。
【これまでの経緯は前編で】
「私は、毒親ではない」
直子さんの35年は、娘のために全力を傾けて生きてきたといってもいい。
「娘には幸せになってほしかった。私ができなかった自立したキャリア女性になってほしかった。それなのに高校2年生くらいから友達の家を泊まり歩いたり、親戚の家に行ったりして、家に帰ってこなくなった。それでも学校は無遅刻無欠席で、学校に乗り込んでいったことがあったんです。そしたら娘は烈火のごとく怒って“ババアがくるなら、私はここで死ぬ”って」
その時は、担任の先生が間に入ってくれて、「今は成長の過渡期であり、自立の時期なんです。何も言わないで見守ってください」と言われて、その日から娘は家に帰るようになり、私はなるべく娘のことを見ないようにしていた。娘は地方の国立大学に進学し、現地で就職。
「勤めて半年もしないうちに、家に帰ってきた。昔の娘のように甘えてくる。うれしかったですね。でも、半年もしないうちにキレだす。それからウチを出ていって、1年もしないうちに帰ってくることの繰り返し。仕事が長続きしないことを注意すると“アンタのせいだ”と言われる。私が“あなたはみんなと違う”と育てたからだと言うんです。毒親だといわれましたが、そんなことはありません。愛情いっぱいかけて育てたのに、なぜそんなことを言われなくてはいけないのかと思いました」
娘は「自分は特別だから、こんな仕事はしたくない」とでも思っているのだろうか。
「そういうことではないと思います。社会に出てから、仕事は好きだと言っていますが、人間関係がうまくいかない。私に対しても、敬語を使って他人行儀にすると思えば、甘えてくる。一度夫に話してもらおうと思ったけれど、“あいつは性根が腐っていて、時間の無駄だ。結婚でもして苦労しろ”と言って終わり」
【娘は一時期、結婚したが……。次のページに続きます】