選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
とてつもないピアニストが現れた。2011年に13歳でパリ国立高等音楽院に入学、まだ20歳にもならないのに博士号を取得し、ソルボンヌ大学でも音楽学を修め、電子楽器オンドマルトノの演奏にも堪能という、フランス=アラビア系出身のマリー=アンジュ・グッチである。
デビュー盤の『鏡 ENMIROIR(アンミロワール)』は、冒頭のフランク「プレリュード、アリアとフィナーレ」から、たっぷりとした重厚で豊かな響きによって、一気に心を奪われる。
フランクを中心にサン=サーンスやバッハ、現代作曲家エスケシュの作品を加えた構成のテーマは、オルガンである。オルガニストとして卓越した作曲家たちの特質をピアノで映し出すこと。この演奏には、複数の音色を重ね塗りしていくことによって得られる響きの充実がある。
大地に根を深くおろした巨樹のような音の存在感。成熟した知性と変幻自在な演奏技巧。この、おそるべき才能がどんな未来を描いていくのか、楽しみでならない。
【今日の一枚】
『鏡 EN MIROIR』
マリー=アンジュ・グッチ(ピアノ)
2016年録音
発売/キングインターナショナル
電話:03・3945・2333
販売価格/3000円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年8月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。