
お釈迦さんが病に倒れ入滅するまでの物語を描いた絵画を涅槃図(ねはんず)という。そこには嘆き悲しむ弟子や羅漢(らかん)などの五十二衆のほかに、ゾウ、シシ、クジャク、ヘビ、ネズミなどの動物が描かれている。
ところが人間と古いつきあいのあるネコは微妙な立場で、一時期描かれなくなった。猫は死者にちょっかいを出して死者を躍らせるからだ、とか、猫は死体を食べるから、など理由はいくつかある。
ネズミにかかわるこんな理由もある。釈迦が病に倒れたことを聞いた母親の摩耶夫人(まやぶにん)は天から薬袋(やくたい)を地上に投じたが、沙羅双樹(さらそうじゅ)の枝に引っかかってしまった。ネズミがそれを取りに行こうとするとネコが邪魔をした。それが元で、ネコは涅槃図に描かれないのだという。
但し薬袋は衣鉢(いはつ)袋だったという説もあり、ネズミは濡れ衣を着せられたのかもしれない。真相はいまだに闇の中である。
文/田中昭三
京都大学文学部卒。編集者を経てフリーに。日本の伝統文化の取材・執筆にあたる。『サライの「日本庭園」完全ガイド』(小学館)、『入江泰吉と歩く大和路仏像巡礼』(ウエッジ)、『江戸東京の庭園散歩』(JTBパブリッシング)ほか。











