かなり年下の甥に入内する威子
I:さて、歴史は移ろいゆくという言葉の通り、道長嫡男の頼通が摂政につくことになりました。家族に祝われているその席で、頼通は妹の威子(演・佐月絵美)に後一条天皇に入内するように勧めます。
A:「帝は十歳。私は十九歳」ということですから、無理やり感もしますね。その縁談を勧めているのが、三条天皇発案の縁談を拒絶した頼通というのが面白いですね。
I:結局、道長四女の威子が後一条天皇に入内して、中宮威子となりました。おばと甥の結婚ということになります。後一条天皇の父一条天皇(演・塩野瑛久)と母彰子は「いとこ婚」でしたから、摂関政治で権力を維持するためには、「近親婚のループ」に陥るわけです。そして、この威子の入内で、太皇太后彰子、皇太后姸子(演・倉沢杏菜)、中宮威子と三后をすべて道長の娘が独占するということになるのですね。
A:ここが注目のポイントです。藤原実資(演・秋山竜次)は自身の日記『小右記』に「一家三后立つ。未曾有」と記しているのですが、三后を道長の娘で独占したといっても、現代的な感覚では、「だから何?」というふうに感じる人もいるかもしれません。権力を笠に着て娘たちを入内させて独占した。それが道長の権勢の源だったということで、「この世をばわが世とぞ思う望月の かけたることをなしと思えば」という有名な和歌につながっていくという解釈なのですが、『光る君へ』での描かれ方をみると、どうも違う印象になってきます。
I:私もそう思いました。皇太后姸子は、皇女出産の際に道長が悦ばなかったということ、自分は父の道具として利用されたと責め立てます。
A:かと思えば、最側近の藤原公任(演・町田啓太)らも、摂政になっても左大臣を兼職して陣定を仕切る道長に退陣を勧めます。
I:権力の頂点を極めたにもかかわらず、孤独感にさいなまれる。辛いですね道長。
A:そうした中で前述の有名な和歌が詠まれたわけです。劇中で描かれた通り、この和歌が現代に伝わっているのは、藤原実資が『小右記』に書き残したからにほかなりません。
I:当の道長も日記には和歌を詠んだことは記しているようですが、どんな歌だったかは記していないようです。最近では、「この世をば」は実は「この夜をば」では? という問題提起もあるようですね。
A:音では同じですからね。そうしたことも踏まえて、道長の栄華について議論が深まっていけば楽しいですよね。今年は2024年ですが、4年後の2028年は道長が亡くなって1000年という節目の年になります。最後に出席者みなで道長の詠んだ和歌を唱和しました。私は、ここは披講(ひこう=節をつけて歌うこと)でいってほしかったです。
I:演者の方が披講というのは難しいですから、吹き替えになりますよね。吹き替えにするくらいなら、ああいう形でいいのではないかということではないでしょうか。
A:道長の子孫で五摂家近衛家の当主である忠大氏が歌会始の披講役をお務めです。近衛さんの披講で道長の和歌をという演出も見たかったような気もしています。
I:また、無理難題をいう。いつもいっていますが、頼通、教通(演・姫子松柾)の兄弟の舞が『源氏物語』の「紅葉賀」を連想させるものだったり、毎度寸分の無駄のない展開にどぎまぎしますね。それから、またまた道長とまひろの思いが重なるところで、銀粉が舞いましたね。若い頃ふたりが逢瀬を重ねた廃邸での夜のように。今回もまた、同じ黛りんたろうさん演出だそうです。さあ、この「光る君へ」も残り4回。本当に終わってしまうのですかね?
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり