創業から27年という若いブランドにもかかわらず、世界が認めるハイブランドの地位を確立したスイスの時計ブランド「パルミジャーニ・フルリエ」。昨今では、ブランド表記すら文字盤から取り去り、究極にシンプルであることを追求するなかで、並外れたクラフトマンシップを表現。その出来栄えで、他を圧倒しています。
取材・文/土田貴史
文字盤をご覧ください。この機械彫りを“ギヨシェ”と言います。機械と言っても、工具の域を出ないものです。そもそも時計の文字盤という数センチの世界に、細かな幾何デザインを彫り込むハイテク機械など存在せず、現存する数少ない旧型機械を修復して使っているのです。
このギヨシェは、職人が目視で確認しつつ、等間隔で位置をずらしながら、同じ模様を押し当てるようにして刻んでいきます。その押し当てる力加減で彫りの深さが変わってしまうのですから、限りなく“ハンドクラフト”に近いものです。
そうした精緻な模様が、圧倒的に細やかなのが、パルミジャーニ・フルリエの文字盤になります。模様一つひとつの単位が細かく、その数が多く、間隔が狭い。ですから、完成したギヨシェからは繊細さが極まり、凛とした緊張感がみなぎります。
そのニュアンスを余すところなく伝えるべく、パルミジャーニ・フルリエの時計には削ぎ落としたデザインが与えられています。かつてはブランド名を記した欧文プレートを文字盤に配していましたが、それすら取り去り、いまでは頭文字のPFだけでブランドを象徴しています。
ブランド名を語らず、クオリティで存在を証明するのがパルミジャーニ・フルリエなのです。
“流れ落ちる涙”のような形状のラグ(※)も、パルミジャーニ・フルリエのアイコンです。その形状がブレスレットへとスムースに繋がっていく美しさは、格別です。しかも、この時計を腕に乗せた時に、ピタッと吸い付くようなホールド感。プレミアムカーのシートに座った時のように、格別なフィット感を感じることと思います。ブレスレットのコマがしなやかで薄く、かつ重量がなく、もたつかないことも理由です。
※ケース本体とブレスレットをつなぐパーツ。
これが、世界最高峰の品質です。
奇をてらわず、最新の工業技術によるハイテク素材にも頼らない。かといってデザインは伝統に固執せず、現代感覚を取り入れています。パルミジャーニ・フルリエの時計は、アイキャッチに頼らず、シンプルさを徹底しています。それゆえハンドクラフト本来の美しさが浮き上がってくるのです。品質追求1点勝負の腕時計と言っても過言ではありません。
パルミジャーニ・フルリエの時計は、熟練職人の技に支えられ、今後も工業技術に置き換わることはありません。工業技術では、一流職人の技術を超えることができないからです。それゆえこの先も価値が下がることは考えにくい。ですから家宝になるのです。
時計専門のオークションでは1900年代中盤のハンドクラフトモデルが注目されていますが、時代が下り、私たちの何代目かの跡継ぎが、2020年代のパルミジャーニ・フルリエを絶賛する光景が目に浮かびます。
さて、今回は2023年のパルミジャーニ・フルリエ新作を紹介します。新作と言っても、2022年に発表されたモデルのバリエーションです。36ミリというサイズ感は、かつてはボーイズサイズとも呼ばれたものですが、今日ではジェンダーレスで使えそうです。女性にとっては腕元を強調するサイズですし、男性にとってはやや小振りで、知性的な印象を導きます。
なるほど、英国王室チャールズ国王愛用のブランドというのも分かる気がいたします。