さようなら平八郎と小平太

盟友の本多平八郎忠勝(演・山田裕貴)と榊原小平太康政(演・杉野遥亮)。(C)NHK

I:さて、終盤の第44回にもなると退場する人が多くて寂しくなりますね。今週は榊原小平太康政(演・杉野遥亮)と本多平八郎忠勝(演・山田裕貴)のふたりの退場が描かれました。

A:今週のふたりの登場場面は、ギュッと各種エピソードが濃縮されていて、感慨深い、ジーンとくる場面になりました。関ヶ原合戦後の加増が豊臣恩顧の大名に篤かったことに触れたり、徳川家中では、本多正信、正純(演・井上祐貴)親子は相変わらず家康に近侍する場面が描かれ、小平太、平八郎との立場の違いにも触れられました。

I:数々の合戦で武功を立てた両者にしてこの待遇、という思いがします。豊臣家中では、三成(演・中村七之助)ら文知派と加藤清正、福島正則ら武闘派との対立が先鋭化しましたが、徳川では不満はあってもぶつかるということがなかったのは、三河家臣団の絆ではないかとも感じました。それにしても平八郎の有名な肖像画をめぐるやり取りや、最後に槍を交える場面など、ちょっとジーンとくるいいシーンでしたね。

A:榊原、本多の両家ともに幕末まで家名を保ちます。榊原家は幕末には上越高田藩で戊辰戦争に敗れた会津藩士を預かります。本多家は転封を繰り返し、故地である岡崎で幕末を迎えます。

I:そして、第44回では家康生母の於大(演・松嶋菜々子)も最後の登場となりました。節目節目にほっこりするようなやり取りで楽しませてもらいました。

A:於大の方の墓所は東京小石川の伝通院(正式には無量山伝通院寿経寺)にあります。境内には於大の方の墓所のほか、家康の孫で豊臣秀頼に嫁いだ千姫の墓所もあります。ちなみに「伝通院」というのは於大の方の法名に由来します。

I:幕末には伝通院で新撰組の前身である浪士組が結成されました。本堂は昭和20年の空襲で焼失して戦後の再建になるのですよね。

A:於大の方のラストシーンでは寧々(演・和久井映見)とのやり取りが交わされました。なかなか当欄で言及できなかったのですが、和久井映見さんの尾張言葉の台詞回しが絶妙ですよね。

I:愛知県出身の私も納得です。

寧々(左/演・和久井映見)と語らう家康生母於大の方(右/演・松嶋菜々子)。(C)NHK

強引に天下を手繰り寄せる家康

凛々しく成長した豊臣秀頼(演・作間龍斗)。

I:第44回冒頭ではまだ7歳の秀頼が、同じ回の後半では19歳に成長しているというスピーディーな展開になりました。秀頼(演・作間龍斗)が19歳になったということは、家康70歳。秀頼の成長ぶりを見て家康は不安を覚えたのではないでしょうか。

A:秀忠(演・森崎ウィン)に二代将軍の座を与えたとはいえ、秀頼もしっかり成長していたら不安でしょうね。「関ヶ原合戦遅参の失敗」を繰り返し出してくる演出も、秀頼と秀忠、どちらが主君にふさわしいのかと諸将が品定めをし始めたらどうなるか――「視聴者の皆さんはどう思いますか?」と投げかけられているようで面白いですよね。

I:秀頼が立派に成長していたとしたら、父である秀吉(演・ムロツヨシ)の能天気で底抜けに明るいキャラクターを思い出して、秀頼派に傾いてしまうかもしれないですね。

A:この段階ではまだ加藤清正、福島正則ら豊臣恩顧の大名らは健在です。成長した秀頼が陣頭に立った時に、彼らが関ヶ原合戦の時のように家康方につくか、という現実的な問題も浮上してきます。

I:その家康が画策したのが、「家康に対する秀頼の臣従」ということになるのでしょうか。

A:歴史はめぐるといいますが、なかなかに面白い展開ですね。かつて秀吉が家康を臣従させるために、あれやこれやアプローチしたわけですが、ブーメランになってかえってきたような感覚ですね。しかし、秀頼の成長と家康の寿命を比較したときに、家康にとって大きな危機だったように思えます。

I:この時の家康の心境はどうだったのでしょう。「徳川が天下を獲るための最終段階にきたのだから、なりふりなどかまっていられない」でしょうか。それとも「戦のない世にするために、公儀がふたつあってはよくない。やはり公儀は一本化しなくては」でしょうか。

A:家康は俗に「鳴かぬなら  鳴くまで待とう  ホトトギス」とうたわれました。ところが実際はどうでしょうか。60代半ばになって、なりふり構わず強引に天下を手繰り寄せようとしている印象です。

A:次週、ますます楽しみですね。視聴者の方々もいろいろ思案をめぐらせて見てほしいですね。家康の天下獲りの動きが「私欲」なのか「公益」のためのものなのか。

I:ラスボス茶々との正面対決がいよいよ迫って参りましたね。

「もっと怖そうに」と、平八郎は全然似ていない自画像を描かせる。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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