石川数正出奔の真意に家臣団が泣いた
I:さて、家康はかたくなに秀吉の懐柔策を受け入れようとしません。やはり秀吉を下に見ていたのでしょうか。
A:そういうの現代でもよくありますよね。格下と思っていた人物が自分の上位に来た場合、うまく立ち回れる人と立ち回れない人。もしや家康はうまく立ち回れない人の設定なのですかね?
I:於愛の方(演・広瀬アリス)と家康のやり取りで〈わしの正室はひとりじゃ! サルの妹ではない〉という台詞を聞いて、瀬名への思いを引きずる設定はともかく「サルの妹」呼ばわりはないかなと思いました。天下統一は三英傑の「信長、秀吉、家康」が織りなした「作品」で、あまりそれぞれを見下ろす描写は見たくないなって。こういう台詞で「家康も小さい男」感が出てきて、ちょっともやもやします。せっかく松本潤さんをキャスティングしたのですから、堂々としたかっこいい家康が見たいんですよ!
A:そうした中で、家康と家臣団のやり取りの場面になりました。勇ましく主戦論を展開する平八郎と直政(演・板垣李光人)を宥める役回りが酒井左衛門尉(演・大森南朋)という流れです。
I:〈殿を秀吉に跪かせたらお方様に顔向けできませぬ〉という台詞があり、於愛の方が〈お方様が目指した世は殿がなさなければならぬものでございますか?〉〈他の人が戦なき世を作るならそれでもよいのでは〉と口をはさみます。なんか「2番じゃダメなんですか?」という言葉を思い出しました。
A:瀬名が発した「戦国ユートピア構想」由来のしんみりしたやり取りの中で、数正(演・松重豊)が仏像胎内に残した押し花が、瀬名が愛した築山由来ということがわかり、数正の真意を知る、という流れでした。〈わしは天下をとることをあきらめてもいいか〉〈秀吉にひざまずいていいか〉と涙ながらに訴えます。
I:家康含む一同が〈数正のせいじゃ〉〈あほたわけ!〉と大合唱し、涙を流す感動場面が演出されました。これが天正14年10月。
A:前述の秀吉による伴天連追放令が出たのが天正15年7月。秀吉VS家康が展開される中で日本の危機が進行していたというわけです。
I:「どうする日本?」という状況だったんですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり