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タクシー運転手と終活に向かうマダムがパリを寄り道

桜の季節に合わせて、日本に多くの外国人観光客が戻ってきました。日本から海外旅行に向かう人も徐々に回復しています。これからの季節のヨーロッパはまた格別ですね。『パリタクシー』はそんな旅心をくすぐる作品。登場人物たちと一緒にパリをドライブするうち、いつしか思いもよらない世界に足を踏み入れています。

――タクシー運転手のシャルルはストレスフルな毎日を過ごしていた。休みなく働いているのに、いつもお金が足りず、おまけに免停寸前。愛する家族に会う余裕も時間もない。切羽詰まった彼のもとに届いた依頼は、とあるマダムをパリの反対側のシャヴァンヌ通りまで送るというものだった。マダムの名はマドレーヌ。92歳の彼女は医師の忠告により、長らく一人で住んだ家を離れ、介護施設で暮らすことになったという。走り出して間も無く、彼女はシャルルに『寄り道してくれない?』と請う。遠回りを渋るシャルルに「人生の10分なんて大したことない」と説得するマドレーヌ。彼女が人生の大半を過ごしたパリの街は思い出とは大きく姿を変えていた。ファーストキスの場所から、一つまた一つと立ち寄りたい場所が増え、訪れる度、並外れたマドレーヌの過去が明かされていく――

主演は実生活でも親交が深い、リーヌ・ルノーとダニー・ブーン

タクシーを貸切り、「あそこに寄りたい。ここも見たい」「ちょっとトイレに」と思いつくまま、最後の時間を過ごそうとするマドレーヌは子どものような無邪気さとどんと構えた迫力を兼ね備えた女性。最初はイライラしていたシャルルもお手上げ状態に。

演じているのは最もキャリアの長いシャンソン歌手であるリーヌ・ルノー。エイズアクティビストと尊厳死法制化への活動の長年にわたる功績を称えられ、2022年には仏最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を受賞しています。1928年7月2日生まれですから、驚くことに実年齢もマドレーヌとほぼ同じです。

無愛想なシャルルを演じているのはコメディアンのダニー・ブーン。映画の中で友情を深めていく二人ですが、同じ労働者階級出身の二人は、ルノーが「ダニーは私の息子」と公言しているほどの仲とか。映画ではシャルルが奥さんに「今、美しい女性を乗せている」と電話する場面が印象的ですが、高齢の女性にリスペクトを忘れないシャルル。一方、強面のシャルルにも臆さず、堂々と話しかけるマドレーヌ。実生活でも親交が深いという二人だからこそ生まれた関係性に魅せられます。

様々な表情をみせる美しいパリの街並みが作品をひき立てる

二人は朝昼夜、1日を通じて、様々な顔を見せるパリを巡ります。エッフェル塔、シャンゼリゼ通り、ノートルダム寺院、凱旋門、パルマンティエ大通り……。観光客なら誰もが訪れたい名所から、タクシーが入れないような裏路地の小さなお店まで、全てがリアルに存在するスポットです。パリってこんなに美しいんだ。パリってこんなに猥雑なんだ。様々な人がいろんなパリの表情を見つけることでしょう。それはきっと、マドレーヌが最後に目に焼き付けたかったパリの生き生きとした本当の姿。

青春時代から数十年、パリで過ごしてきたマドレーヌにとって、どんな場所にも思い出が詰まっています。楽しい思い出ばかりではありません。彼女が生き抜いた時代は歴史が大きく動いた時期でもありました。戦後のお祭り騒ぎ、それに続くどさくさ。女性が外で働くにもお金を使うにも夫の許可が必要で、離婚が珍しく、中絶手術が違法だった、女性の権利がまるで認められていなかった頃。マドレーヌは今では考えられない体験をして、時代の移り変わりを目の当たりにしてきた生き証人。彼女のような女性たちがいたから、私たちの今があるのだと先人たちの苦労を想像せずにはいられません。

人を豊かにしてくれる出会いに心がじんわりと温まる作品

マドレーヌから醸し出されるチャーミングさ。これはリーヌそのものの魅力なのか、演技なのか、わからなくなる時があります。クリスチャン・カオリン監督は脚本を読んですぐ、マドレーヌ役に彼女を思い浮かべ、「あなたにぴったりな役だ」と本人に伝えたそうです。ところがそれに対してリーヌは「いいえ。これは私の物語よ。私の遺言になる映画よ」と答えたそうです。「私はリーヌ・ルノーではなく、マドレーヌ自身なのよ」と。映画からはマドレーヌを通して、リーヌが私たちに伝えたいことが溢れ出てきます。

――セーヌ川を臨む橋の上で、たばこを吸い、シャンゼリゼでアイスクリームを食べ、マレ地区で豪華ディナーをして、最後は腕を組んで歩く。まるでデートのように長い一日を過ごした彼ら。別れを惜しむ恋人たちのように離れがたい二人に容赦無く、約束の時間が迫ってくる。そして……――

 「微笑むたびに人は若返る」。

艱難辛苦を乗り越えてきたマドレーヌがシャルルに託す言葉です。出会いこそ、仏頂面だったシャルルはいつしか、柔和な顔つきに変わっていました。人との出会いは人を豊かにします。彼らの道中を見守るうち、こちらも栄養補給されたように、なんだかじんわり心が温かくなっています。映画を観ながら微笑んで。若返り効果も期待できそうです!

パリタクシー
4月7日(金)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国公開
© 2022 – UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS, PATHE FILMS, ARTÉMIS PRODUCTIONS, TF1 FILMS PRODUCTION

監督:クリスチャン・カリオン
出演:リーヌ・ルノー、ダニー・ブーン
2022年/フランス語/91分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:Une Belle Course/日本語字幕:星加久実
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
配給:松竹
公式HP :https://movies.shochiku.co.jp/paristaxi/

文/高山亜紀


 


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