「言葉の天才」と呼ばれた永六輔さん。その「言葉」によって、仕事や人生が激変した著名人は数知れない。永さんと長く親交があったさだまさしさんと孫・永 拓実さんが、「人生の今、この瞬間を有意義に生きるヒント」をまとめた文庫『永六輔 大遺言』から、今を生きるヒントになる言葉をご紹介します。
文/永拓実
仕事よりもまず、人としての振る舞いに「プロ意識」を持つ
元フジテレビアナウンサーの母・麻理に聞くと、祖父は「プロ」という言葉をよく口にしたそうです。
“プロ意識を持たないといけない”
「プロ」というのは一般的に、ある職業の「玄人」「専門家」という意味で使われます。だからこの言葉も「自分の仕事を極めろ」という意味かと思いきや、少し意味合いが異なるようです。
タレントの清水ミチコさんから伺った話です。
清水さんと祖父が出会ったのは、清水さんがまだ20代前半、デビューする前のこと。小さな劇場で〝芸〞を披露していたとき、祖父に目を留められた清水さんは、本番後にこう言われました。
「君、芸はプロだけど、生き方がアマチュアだね」
初対面にもかかわらず喫茶店に呼び出され、舞台上での立ち居振る舞い、お辞儀の仕方を教えられたそうです。芸人として、仕事がどんなに優秀でも、もっと基本の部分にこだわらないといけない。その考え方を裏付ける祖父の言葉があります。
“職業に貴賤(きせん)はないけど、生き方に貴賤はある。職業はやめられるが、生きることはやめられない”
“僕は職業が永六輔だから、別に仕事に生きがいを求めなくてもいいんですよ。(中略) 僕にとっての職業というのは、「生き方」といってもいいのかもしれない。「生き方」を引退するときは、死ぬときです”
ある仕事を極めたとしても、仕事が変わったらそれまで。希望しないのに変えられてしまうこともあるでしょう。しかし、自分の生き方は一生もの。だから仕事での能力や実績よりもまず、一人の人間としての振る舞いに「プロ意識」を持つ。祖父が言いたかったのはそういうことだと思います。
祖父が自分の職業を躊躇なく変えることができたのも、自分自身の生き方にプライドを持っていたからかもしれません。
大学3年になり、僕も周囲も就職活動を始めています。やはり有名企業や官庁という世間体のいい組織に、どうしても目が行きがちです。その風潮に流されないためにも、職業よりも生き方を重視した祖父の言葉を、覚えておきたいものです。
永六輔の今を生きる言葉
職業に貴賤はないが、生き方に貴賤はある
職業よりも「生き方」を極めよう
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『永六輔 大遺言』(さだまさし、永拓実 著)
小学館
さだまさし
長崎県長崎市生まれ。1972年にフォークデュオ「グレープ」を結成し、1973年デビュー。1976年ソロデビュー。「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒットを生み出す。2001年、小説『精霊流し』を発表。以降も『解夏』『眉山』『かすてぃら』『風に立つライオン』『ちゃんぽん食べたかっ!』などを執筆し、多くがベストセラーとなり、映像化されている。2015年、「風に立つライオン基金」を設立し、被災地支援事業などを行なう。
永拓実(えい・たくみ)
1996年、東京都生まれ。祖父・永六輔の影響で創作や執筆活動に興味を持つようになる。東京大学在学中に、亡き祖父の足跡を一年掛けて辿り、『大遺言』を執筆。現在はクリエイターエージェント会社に勤務し、小説やマンガの編集・制作を担当している。国内外を一人旅するなどして地域文化に触れ、2016年、インドでの異文化体験をまとめた作品がJTB交流文化賞最優秀賞を受賞。母は元フジテレビアナウンサーの永麻理。