49歳で家業を引退し、江戸に出て天文学者に入門。夢だった天体観測の世界に入り、持ち前の根気と執念で日本全国を測量。第二の人生を難事業に捧げた伊能忠敬の実像を探る。

伊能忠敬像(部分)。文政4年(1821) 頃に測量隊員が描いた忠敬唯一の肖像画。縦90.4×横31.4cm。国宝、伊能忠敬記念館蔵

「日本全図実測への道」伊能忠敬略年表

独学で天文学を勉強 55歳にして始めた大仕事

伊能忠敬は千葉県九十九里浜のほぼ中央部に位置する小関村(現・九十九里町)に生まれた。

6歳のとき、母が他界。婿養子だった父は離縁され、忠敬はしばらく父方の叔父に預けられた。
 
17歳のとき、佐原村(現・千葉県香取市)の伊能家に婿入り。相手のミチは21歳の未亡人で、子どもがひとりいた。

伊能忠敬記念館学芸員・石山啓(いしやまひらく)さんは語る。

「当時の佐原は、利根川の水運を利用した物資の集散地です。伊能家は村有数の酒造家でした。忠敬は家業を広げ、家産を大幅に増やしています」

忠敬は村役人としても活躍した。天明年間(1781~89)の大飢饉や利根川の洪水では村民救済に奔走。領主から村方後見(名主を監督する立場)に任命された。

家業を盤石にした忠敬は49歳で隠居。名を勘解由(かげゆ)と改め、家督を息子の景敬にゆずった。そのまま余生を楽しむかと思いきや、江戸へ出て深川黒江町(現・江東区門前仲町1丁目付近)に居宅を構えた。そして19歳も年下の天文方(※江戸幕府の役職。天文・暦術・測量・蘭書の翻訳などを担当)・高橋至時(たかはしよしとき、1764~1804)に弟子入りしたのだ。

「実は忠敬は商売の傍ら天文や暦学の書物を読みあさり、独学で星座などの勉強をしていたのです」(石山さん)

星座早見盤。針を季節・時刻に合わせると、そのときに見える星を知ることができる。円径41.5cm。国宝、伊能忠敬記念館蔵
葛飾北斎『冨嶽百景・鳥越の不二』に描かれた浅草暦局の天文台。現在の台東区浅草橋3丁目付近。高橋至時の住まいでもあった。千葉市美術館蔵

1日40km歩いて測量

その頃、高橋至時は幕府の命により「寛政暦」を制作していた。暦の精度を上げるには、地球の大きさや日本各地の経緯度を正確に知る必要がある。忠敬は、恒星の観測により、深川の自宅と浅草の暦局(天文方のある役所)の緯度の差が約1分半と分かっていた。そこで両者の距離を測れば緯度1分の長さが分かり、地球の大きさが計算できると考えた。

忠敬は早速、距離を実測。使った方法は、同じ歩幅で歩く歩測法だ。

忠敬は両者の直線距離を22町45間(約2480m)と割り出し、測量図を師匠の至時に提出した。

黒江町・浅草測量図。忠敬の最初期の実測地図。縮尺6000分の1。下方「深川黒江町」が隠宅。上方左の「司天臺」が浅草暦局。国宝、伊能忠敬記念館蔵

至時はいった。

「これでは距離が短すぎる。せめて蝦夷地(北海道)あたりまで測らないと正確な値が得られない」

至時は幕府に、地図作製を名目に蝦夷地の測量許可を得ることにした。交渉は難航したが、寛政12年(1800)、55歳の忠敬は第1次測量に旅立った。同行したのは3人の内弟子とふたりの下僕だ。費用はほとんど忠敬が負担した。

名目は蝦夷地の測量だったが、忠敬の真の狙いは蝦夷地までの距離の測定と先々での天体観測だ。

千住から津軽半島の先端まで21日で歩いた。1日約40kmのペースだ。昼間は歩測し、夜は記録の確認と整理。天気がよければ天体観測を行なった。江戸帰着まで180日間の行程だった。

帰着後、忠敬は大図21枚、小図1枚を製作。幕閣に高く評価され、内々に第2次測量計画の提出を求められた。

こうして忠敬は、71歳まで10次にわたる測量を行ない、初めての日本全図の実測を成し遂げたのだ。第二の人生というには、あまりに偉大な難事業であった。

※この記事は『サライ』本誌2021年7月号より転載しました。

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