趣味が高じた写真の腕はプロレベル、浅草の風景写真を撮影
――坂崎さんはカメラが趣味で、毎年個展も行っています。撮影された、現在の浅草の写真も美しく、ユニークです。雷門の提灯の下にあるレリーフなど、思いもよらない発見がありました。
現代の浅草の写真は、コロナ禍で観光客が減っている時期の早朝に撮影しました。いつの時代も、観光客や買い物客でごった返している浅草に、全く人がいないというのは、今のこの状況ならではの風景です。
僕が撮った写真を生田さんとチェックしたのですが、「人があまりにもいないと、寂しいね」ということになり、再び時間帯を変えて撮りに行ったんです。でもたくさんの人が写りこんでいると、どうしてもいつもの見慣れた風景になってしまいますね。ですので結局は、最初に撮った、人の少ない浅草の写真を多めに使用しました。
カメラを趣味にしてから、35年くらいでしょうか、浅草の街も撮り続けてきましたが、今回は「絵葉書と同じ角度と場所」を意識して撮影しました。さまざまな発見がありましたよ。絵葉書の資料と見比べながら、レンズを使い分けけるなどして、なるべく絵はがきに寄せていったのです。自分が取りたい浅草ではなく、“絵はがきの浅草”を切り取っていく……これは、とても新鮮な感覚でした。
――『スカイツリー』を、かつて浅草寺の境内に建っていた『ポニータワー』に見立てた写真もユニークです。ポニータワーは、1967年から1973年まで存在していましたが、今や、知る人も少ない回転昇降式展望塔だといいます。
実はこのポニータワーのことを知りませんでした。タワーが存在したのは、ちょうど、僕が中学生から高校生だった時代と重なります。この時代の浅草は、少々さびれており、“かつての盛り場”になってしまった時期で、若者は新宿や渋谷に行っていました。
ポニータワーだけでなく、東京の遊具施設は夢のように消えてしまい、記憶にも残りにくいです。絵はがきを調べているうちに、発見をしたり、教えられることが多々ありました。一つの街を掘り下げていくというのは面白いですね。新しい発見があります。
『ふるさと東京今昔散歩第1巻 浅草編』は、資料としてもおもしろいですが、時間旅行気分の街ガイドとしても興味深いですよ。
後編では、坂崎幸之助さんの多彩な趣味について、人生を楽しむコツと共に紹介します。~その2~に続きます。
坂崎さんの最新刊
前書きより……
僕が生まれ育ったのは墨田区吾嬬町(現在の立花)。実家は小さな酒屋だが十人近い大家族。
その末っ子として生を受けたため、周りの大人達に囲まれて、やたら頭でっかちなマセたガキでした。
街の小さな酒屋とはいえ、当時は今と違って週のうちの六日間は鬼のように忙しく、親父と叔父たちは一日中配達を、それこそ閉店時間近くまで続けていたのを覚えています。
それでもたまに浅草や上野に連れて行ってくれたのは、今にして思うと親の心子知らず、本当に感謝の気持ちしかありません。
大人になって浅草の魅力を再発見し出した昨今、子供の頃そこで見た景色、経験は自分にとっての宝物だと改めて感じます。
浅草の今昔物語(奇譚)には、幼い自分へのノスタルジーと、大人になった自分にとっての浪漫が詰め込まれているのです。(by 坂崎幸之助)
撮影/フカヤマノリユキ 取材・文/前川亜紀