文/鈴木拓也
「唾液の役割とは?」と聞かれたら、大半の人は「食べ物に含まれるデンプンを糖に分解する」作用を思い浮かべるだろう。
実は医学研究の進展で、唾液には、はるかに多くの役割があることが、解明されている。
例えば、快眠を促す作用。唾液に含まれているメラトニンというホルモンは、夜になると分泌量が増し、脳や身体は心地よい質の高い睡眠をとるべく態勢を整える。ムチンには、口内の粘膜を保護し、病原菌などが体内に侵入するのを防ぐ働きがあり、重炭酸塩は、食事で酸性に傾いた口内環境を中性へと戻し、虫歯にかかりにくくするという。
こうした唾液が持つ重要な働きを最新の知見をもとに解説し、加齢などにより減少する唾液の分泌量を回復させるためのセルフケアも網羅しているのが、書籍『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』(扶桑社)だ。
■唾液に含まれるIgAは「免疫界のエース」
唾液の99%は水分で、残る1%に人間の健康に役立つ様々な物質が含まれているという。上に述べたメラトニンやムチンなどはその一部にすぎず、100種類以上の成分が含まれていることがわかっている。
その中でも本書で「免疫界のエース」とされているのが、IgA(免疫グロブリンA)。唾液に含有される抗菌物質の中でも分泌量が一番多くて、1日あたり50~100mg分泌される。口内に入り込んだ有害なウイルスや細菌を見つけるや、いくつものIgAがそれにくっついて粘膜に付着させないようにし、体内への侵入を阻んでくれる頼もしい存在だ。
しかし、歯周ポケット(歯周病菌が作った歯と歯茎の間にできる溝)の中まではIgAは行き届かず、歯周病が進行してしまう。そのため、歯周ポケットが形成されないよう、IgAの分泌量を維持し、歯周病菌の増殖を抑えておくことが健康な歯のカギとなる。
■様々な効用があるタンパク質「グロースファクター」
唾液には10種類以上の、グロースファクターと呼ばれるタンパク質が存在する。こうしたタンパク質は、「細胞の分化・増殖に作用し、活性化や修復を促進する」働きがある。
グロースファクターの1つであるaFGFは、線維芽(せんいが)細胞に対し、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などの増産シグナルを出して生成を助けることで肌を再生。シワが改善されるなど、見た目の若さや美白効果をもたらす。
他方、グロースファクターのBDNFには「ストレスによる脳の神経細胞へのダメージ」を抑える作用があることから、うつ病予防に効果があり、NGFは、「脳の老化を抑え、若返りを促進するアンチエイジングの効果」があるとされている。
■減った分泌量はこうやって増やす
このように唾液には、心身の健康に欠かせない役割があるが、喫煙や加齢などの要因から、分泌量は減ってしまうという問題がある。
それにより、口内環境が悪化してインフルエンザや歯周病にかかりやすくなったり、動脈硬化や大腸炎など、一見関係ないと思われる病気の罹患リスクも増大するという。
ただし、生活習慣の改善やトレーニングによって、唾液の量を回復させることは可能だ。
例えば食生活。単純にこまめな水の摂取を心がけるだけでも、唾液の量は増す。また、ぬるめの湯(60度)で抽出した緑茶あるいはヨーグルトには、IgAの量を増す効果がある。逆に控えたいのが、揚げ物やインスタント食品。これらに多く含まれる脂質は、唾液の質を落としてしまう。
また、セルフケアとして有効なのが唾液腺のマッサージ。本書には3種類のマッサージが掲載されているが、一番効果が出やすいのが耳下腺マッサージ。耳下腺を刺激することで「唾液のサラサラ感が増し、身体の緊張がほぐれます」という。やり方は以下のとおり。2分以内で10回以上繰り返す。
耳の下から少し前の位置(左右両方)に人さし指、中指、薬指の3本を当て、そこを中心に円を描くように指を回します。強く押さずにゆっくりと回すのがポイントです。(本書53pより)
本書には、これ以外にも「IgAの分泌量を増やすストレッチ」や「嚥下体操」など、唾液の有効成分を増やすためのメソッドがある。もしも、「口の中がネバネバする」とか「食べ物が飲み込みにくい」といった自覚症状があるなら、「唾液力」が低下しているかもしれない。本書のセルフケアで、唾液力アップをはかってみてはいかがだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594614928
(槻木恵一監修、本体950円+税、扶桑社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。