文/鈴木拓也

50代半ばにして、各地の有名マラソン大会に次々と参加し、その多くをサブスリー(3時間未満のタイム)で完走している人物がいる。本間俊之さん。外資系銀行に勤める市民ランナーで、月に300km以上走り、適度に糖質を制限した食事を摂るなど、熟年スポーツマンの鏡のような存在だ。

さぞや若い頃から実業団などで鍛錬してきた人物かと思いきや、ランニングを始めたのは48歳。しかも、趣味のゴルフ以外にスポーツに励んだことはなく、ヘビースモーカーで体重80kgのメタボ体型だったという。

そんな本間さんが走るきっかけを得たのが、2011年暮れの同窓会。酔った勢いで友人の駅伝代走を引き受けることになり、3か月後の大会に備え「知識ゼロからしぶしぶ」トレーニングを始めた。

当初は短距離を走るのさえ難しく、たびたび右ふくらはぎの肉離れに見舞われるなどしたが、本番ではどうにか3kmの区間を完走。このときに、「疲れや痛みより、タスキを無事につないだ達成感が上回り、その後の飲み会では、ずっと興奮状態」が続いたことから、ランニングの素晴らしさに目覚め、フルマラソン出場を決意する。

この決意から最初のフルマラソン完走、そしてサブスリーまでの道のりは、著書『40代から最短で速くなるマラソン上達法』(SBクリエイティブ)に詳しいが、これを読んで最初に分かるのは、実はマラソンの訓練は思ったほどには過酷ではないということだ。

本間さんがまったくのビギナーの頃は、仕事帰りに1駅手前で降りて3.5kmほどのウォーキング週1~2回行うだけ。サブスリーを達成した時期でも、長距離を走り込む練習は週1回にとどめ、それ以外の日は5~10kmをスローペースのジョギングに徹していたという。コースは、皇居1周+日比谷公園1周(約8km)が定番とのことで、「これなら自分もできそう」と思える(もちろん、継続できるどうかは別問題として)距離だ。

一方で、「中高年ランナーは、いかに疲れをとるかがとても重要です。この年齢になると、若い頃に比べグッと疲れがたまりやすくなるからです」と、戒めの言葉も忘れていない。特に50歳を超えると「日ごと衰えを感じるほど顕著」だと本間さんは言うが、これは練習を見直し改善を繰り返すことで、抑えられるとも。

意外なことに本間さんは、「それほど走ることが好きなわけではない」という。強化練習の日は朝から憂鬱になるくらいで、真のモチベーションは、どう練習すれば自己ベストを更新できるかという知的好奇心にあるとする。また、「仮装ラン」でウサギの耳をかぶって走った時は、沿道の見物客の声援を受ける喜びをかみしめた経験から、楽しんでやることの重要性も説く。

本書は一見、ストイックなトレーニングメソッドで埋め尽くされた専門書の印象を受けるが、自身の年齢と折り合いをつけつつ、ワンランク上にチャレンジするヒントが詰まった処世訓として読むこともできる。これからランニングをしたいと考える人も、そうでない人も、ぜひお手にとって読んでほしい1冊である。

【今日の健康に良い1冊】
『40代から最短で速くなるマラソン上達法』
(本間俊之著、820円+税、SBクリエイティブ)
http://www.sbcr.jp/products/4797383492.html

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

 

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