母の介護を13年近く続けた市毛良枝さんが、その日々を振り返った新刊が発売されました。多くの困難や葛藤を乗り越え、母の“人生100年”に伴走した背景を伺いました。

市毛良枝(いちげ・よしえ)
俳優。文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年にドラマ『冬の華』でデビュー。
以後、テレビ、映画、舞台、講演と幅広く活躍。40歳から始めた登山を趣味とし、’93年にはキリマンジャロ、後にヒマラヤの山々にも登っている。
環境問題にも関心を持ち、’98年に環境庁(現・環境省)の環境カウンセラーに登録、第7回環境大臣賞(2025年/市民部門)受賞。
また特定非営利活動法人日本トレッキング協会の理事を務めている。
NHKBSプレミアムドラマ『終活シェアハウス』に出演中。

――お母様は2016年に100歳と10か月で旅立ちました。新刊『百歳の景色見たいと母は言い』では約13年間の介護を振り返っています。
中でも、お母様が92歳からアメリカのオレゴンに旅行をしたことは、介護中の人も「親孝行にまだ間に合う」と励まされるのではないでしょうか。

「母の衰えを感じ始めた頃、旅好きの母に“旅行するならどこに行きたい?”と聞きました。すると、私が出演したドラマのロケ地のオレゴンがいいと答えます。そこで、友人2人に声をかけ、付き合ってもらって実現しました。母にも私たちにも充実の旅行となり、翌年、翌々年も4人でオレゴンに行くことになりました」

――そこに至るまでには、市毛さんのサポートがありました。

「体は行きつ戻りつしながら、緩やかに衰えていきます。介護のきっかけになったのは、母が86歳のときにがんの手術をしたことでした。順調に回復したものの、それから、脳梗塞や、脳出血を起こし、入院中にベッドから落ちて大腿骨頸部を骨折したりと続きました。

当時、母と私は坂の上にある二世帯住宅に住んでいたので、車椅子生活になれば、引っ越さなければなりません。ひとつの変化により、大きな変化を迫られ、常に必死に走り続ける日々でした」

――しかし、その後、旅行ができるまで回復したのは、お母様ご自身のリハビリへの取り組みがありました。

「リハビリは、スポーツジムのような器具とマシーンを使って行なうメニューもあり、好奇心旺盛な母は、初めての体験が面白かったようです。

半年の入院でしっかりとした筋肉をつけ、杖を使い歩くまでに回復。当時、母は90歳。やる気と行動があれば、体は変わる。母を通じて奇跡を見ているようでした」

“私らしさ”の先にいい人生がある

「退院後も週2回ほど通っていましたが、時間経過や制度の変化で機会は減らされ、在宅リハビリをすすめられるように。

それでは母の意欲が薄れてしまう。やはり、共に努力する仲間や、周囲の応援があるから“もっと頑張ろう”という気になるもの。そこで私は、リハビリを重視するデイサービスや通所できる施設を探し回りました」

――それが、92歳から、4度のオレゴン旅行に繫がります。

「さすがに覚悟が必要でした。旅行の準備中、母はリハビリを頑張り、私は“もしも”のための具体的な対策を立てました。渡航時は、パウチ状の介護食や粉状のとろみ剤などの必需品を日数分用意。無事にオレゴンに到着し、滞在を楽しみました。
 
当時、母はほぼ話さなくなっていたのですが、旅行で多くの刺激を得たのでしょう。旅行中も帰ってからも、その思い出を皆さんに話すようになり、感動しました」

――高齢の母を伴う旅を憂う声もあったのではないでしょうか。

「世間は “老人らしさ”を求める傾向があります。でも、安静に過ごした先に幸せはあるのでしょうか。母も私も批判の声は聞き流し、世間とは折り合いをつけつつも“私らしさ”を優先しました。母は退屈すると死んでしまうようなわが家の“姫”なのです(笑)。母は楽しい人生を全うしたと思いますが、それには多くの方の理解と協力がありました。そのことに改めて感謝しています」

取材・文/前川亜紀 撮影/フカヤマノリユキ スタイリング/金野春奈(foo) ヘア&メイク/長縄希穂( マービィ) 

『百歳の景色見たいと母は言い』
市毛良枝

親の老いを受け入れ伴走し、母を看取るまでの介護の日々を綴る。介護に直面した人々が共感でき、後悔しないためのヒントにあふれている。

 

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