取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
「50歳を過ぎたら帯状疱疹ワクチン」というCMがよく流れています。確かに年齢による事情もあるのですが、コロナやインフルエンザにかかると同時に発症するリスクが高まるそうです。近畿大学医学部皮膚科の大塚篤司先生にお話しいただきました。
50歳くらいを境に始まる免疫の低下
――なぜ50歳を過ぎたら帯状疱疹ワクチンを接種した方がいいのでしょうか。
「脊椎にある神経には、水疱瘡に感染後、水痘帯状疱疹ウイルスが棲んでいます。普段は免疫細胞によって抑え込まれているのですが、だんだんその免疫細胞の力が弱くなり、帯状疱疹ウイルスが再活性化されます。つまり、子どもの時にかかった帯状疱疹(水疱瘡)の免疫力が衰えてくるのが50歳くらい。免疫の老化が始まります」
――コロナになると発症しやすくなる?
「コロナになると、帯状疱疹ウイルスをガードしていた免疫細胞がコロナから身を守るために持ち場から離れてしまいます。帯状疱疹を抑え込んでいた免疫のバランスが取れなくなり、ウイルスの方が強くなって帯状疱疹を発症するのではないかという説が有力です」
――インフルエンザや風邪でもリスクが高まるのですか。
「インフルエンザや風邪、がんも同じことです。感染症も含め、体全体にダメージを受けると帯状疱疹を発症しやすくなります。もちろん、若くても発症することがあります」
後遺症が残ることもある
――水疱瘡と同じウイルスなのですか。
「ウイルス自体は同じです。ウイルスは神経の根本に棲んでいるのですが、普段は免疫が抑え込んでいるからおとなしくしています。免疫がだんだん弱くなると、ウイルスが再活性化して広がります。強力になるというよりは元気になるのです」
――見た目は水疱瘡とは全然違いますが。
「皮膚の症状自体は同じですが、範囲が違います。水疱瘡は頭のてっぺんから爪先まで全身に出ますが、帯状疱疹は神経に沿って増えるので、帯状に繋がっていてひどく見えます。一つ一つは虫眼鏡で見ると全く同じです」
――症状は?
「痛みとかゆみと発疹が主な症状で、発疹は体中どこにでも出ます。顔、体表、手足、頭、耳の中など神経のあるところには全て出ます。痛痒いと言う人もいますし、神経痛がメインでヒリヒリすると言う人もいれば、ズキンという痛みの人もいて、全く痛みを感じない人もいます」
――後遺症もありますか。
「一番気をつけてほしいのは、帯状疱疹後神経痛です。帯状疱疹を発症した後、神経自体が傷んで、その傷んだ神経が何年も痛いというのが帯状疱疹後神経痛です。目もウイルス性の角膜炎が起きて、視力障害が出ることがあります。ラムゼイハント症候群という、耳のところにできた帯状疱疹により顔面神経麻痺が残る後遺症もあります」
予防法と治療法
――予防法は帯状疱疹ワクチン接種でしょうか。
「ワクチンは、帯状疱疹だけでなく後遺症も予防できます。種類は2種類あります。1回接種するワクチンは発症予防効果が5年くらいで半分くらい、2回接種するワクチンは10年経過しても9割くらい予防できます。それぞれ価格が違うので医療機関にお問い合わせください。体が弱っていると発症しやすいので、よく寝て、きちんと食べることも大事です」
――治療法も教えてください。
「発症してしまった場合は抗ウイルス薬と痛み止めを使います。飲み薬と点滴があります」
大塚篤司先生
近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授
信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て、2021年4月、近畿大学医学部皮膚科学主任教授。診療・研究・教育に取り組んでいる。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー皮膚疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとしてネットニュースやSNSでの医療情報発信につとめている。Twitterアカウントは、@otsukaman 著書に『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)など。
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)社会と医療の接点にある問題について取材・執筆。X(旧ツイッター):@world115115