文/中村康宏、内本菜穂

厚生労働省の統計によると令和2年の1年間で食中毒になった人は14,613人報告されており、その内3名が亡くなったとされています。(食中毒統計資料)
この数は、医師が食中毒と診断し、保健所に届け出たもののみの統計となる為、病院にかからなかった場合等も含めると、実際はこれよりもはるかに多い人が食中毒に罹っていると推測されます。
今回は、特に梅雨・夏の時期に向けて増加する細菌性の食中毒の原因や対策について解説します。

食中毒が多い季節とは

令和2年に発生した食中毒の原因は、細菌性のものが6.5割、ウイルス性のものが2.5割と報告されています。(食中毒統計資料)
高温多湿になる5〜9月頃は細菌性の食中毒が増加し、冬の12〜3月頃はウイルス性の食中毒の発生件数がピークを迎えます。

細菌性の食中毒の原因

(1)サルモネラ菌
十分に加熱していない卵や肉、魚が原因となります。
例:生卵やレバ刺し、牛肉のたたき等

食後、6時間~48時間で、吐き気、腹痛、下痢、発熱、頭痛などの症状が出ます。
乾燥に強く、熱に弱い特徴があります。

(2)カンピロバクター
十分に加熱されていない肉(特に鶏肉)や、飲料水、生野菜などが原因となります。また、ペットから感染することもあります。
例:加熱の不十分な焼き鳥や鶏刺し、井戸水や湧水

食後2~7日で、下痢、発熱、吐き気、腹痛、筋肉痛などの症状が出ます。
乾燥に弱く、加熱すれば菌は死滅します。

(3)腸炎ビブリオ
生の魚や貝などの魚介類が原因となります。
例:刺身、寿司

食後4時間~96時間で、激しい下痢や腹痛などの症状が出ます。
海水など塩分のある所で増える菌で、真水や熱に弱い特徴があります。

(4)黄色ブドウ球菌
人の皮膚、鼻や口の中にいる菌です。
傷やニキビを触った手で食べ物を触ると菌が付きやすくなるため、加熱した後に手作業をする食べ物が原因となります。
例:おにぎり、お弁当、調理パン

食後30分~6時間で、吐き気、腹痛などの症状が出ます。
この菌が作る毒素は熱に強く、一度毒素ができてしまうと、加熱しても食中毒を防ぐことはできません。

(5)腸管出血性大腸菌(O157や O111等)
十分に加熱されていない肉や生野菜などが原因となります。
例:加熱不十分な肉料理、洗い足りない野菜

食後12~60時間で、激しい腹痛、下痢、血が多くまざった下痢などの症状が出ます。
症状が重くなると、死亡することもあります。
十分に加熱すれば防ぐ事ができます。

細菌性の食中毒を防ぐ3つの決まり

(1)つけない
食中毒予防には何よりもまずしっかり手を洗う事が大切です。帰宅時、調理前、調理中、食べる前とこまめに手洗いを行い、食材に細菌を付けないように注意しましょう。
調理器具を介して細菌が付いてしまうのを防ぐ為、野菜など生で食べるものを先に切るようにしたり、野菜と生の肉や魚は別の包丁やまな板を使用しましょう。
また、お弁当の彩りとしても活躍してくれるミニトマトは軽く洗ってヘタごと入れるという方も多いのではないでしょうか。
トマトのヘタには大腸菌等の細菌が付いている事が多く、お弁当箱の中で増殖……なんて事になるかもしれません。
ヘタは取って、よく洗ってから入れるようにしましょう。

(2)増やさない
細菌の多くは高温多湿な環境で増殖が活発になりますが、10℃以下では増殖がゆっくりとなり、マイナス15℃以下では増殖が停止します。
細菌を増やさない為には低温を維持する事が大切です。
食材やお弁当を持ち運ぶ際、少しくらいならと常温で持ち歩いていませんか?
細菌が増殖した後に冷蔵庫へ入れても、細菌が無くなるわけではありません。
短時間の移動でも、保冷バッグや保冷剤を使用してできる限り温度を上げない工夫をしましょう。

(3)やっつける
ほとんどの細菌は加熱によって死滅します。中心部の温度が75℃で1分以上加熱する事を目安として、肉や魚は中心までよく加熱する事が大切です。
ふきんやまな板、包丁などの調理器具にも細菌は付着する為、洗剤でよく洗ってから、熱湯をかけて殺菌しましょう。

* * *

細菌が付いた食材を食べたからと言って必ずしも食中毒になる訳ではなく、健康な人は、胃酸によって食中毒菌を殺菌したり、腸内にいる乳酸菌などで食中毒菌が繁殖しにくい環境を保ち発症を抑えてくれています。しかし、免疫力の低い小さなお子さんや高齢者、寝不足やストレス、悪い食習慣で腸内環境が乱れている方は食中毒になりやすく注意が必要です。
自己免疫機能を高める為にも、日々の食事や生活習慣を改善する事も大切と言えるでしょう。

内本菜穂
虎ノ門中村クリニック管理栄養士。個々の生活スタイル、食事内容、嗜好などを伺い、一人ひとりに合った無理のない食事指導を実践しています。


文/中村康宏
医師。虎ノ門中村クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。近著に「HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること」(主婦の友社刊)がある。

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