冬まっただ中、一年で最も寒いとされる大寒を過ぎたばかりで、身を切るような寒さはまだまだ続きます。そんな季節に恋しくなるのは、ぐつぐつと小気味よい音が食欲をそそる鍋料理。中でも、おでんは庶民の味として古くから親しまれている鍋ものの代表格。

おでんの名店は数多いですが、地元客のみならず遠方からの来店者も少なくないという老舗が福岡にあります。多くの呑兵衛が、この店でおでんを肴に杯を傾ける時間が至上のひとときという『名代おでん安兵衛』です。創業は昭和36。屋台で知られた博多・中州の中心から少し離れた西中洲の静かな小路に暖簾を掲げています。

昭和の趣がある店。引き戸を開けると、あたたかい雰囲気に満ちる。

昭和の趣がある店。引き戸を開けると、あたたかい雰囲気に満ちる。

 

店内は分厚い檜の一枚板のカウンター席とテーブル席があり、カウンターの前に置かれた銅鍋には、店主の小笠原亮介さんが手間暇かけて仕込んだ美味しそうなおでんの具が並びます。 

鍋前に立つのはご主人の小笠原亮介さん。

鍋前に立つのはご主人の小笠原亮介さん。

 
この店のおでんは、関西でいう薄口醤油を使う関東炊きとは異なる、濃口醤油のおでんで、つみれやがんもなど、具のほとんどが手作りです。一見、甘辛く味の濃いおでんに感じられますが、見た目とは異なり、口に運ぶと素材の旨味がしっかり感じられるあっさりとした味付けに驚かされます。芯まで染みた大根は、大根の甘みとつゆがほどよく溶け合い、つみれは鰯の味と香りがふわりと鼻に抜けます。べったりとした甘さが一切ないのは、調味に砂糖を使っていないからと聞いて、合点。春菊は独特の風味を活かすため、注文を受けてから供する直前につゆにさっとくぐらせて味をなじませ、玉子は殻付きの生の状態でつゆで煮ます。

春菊は注文後に鍋に入れる。

春菊は注文を受け手から鍋に入れる。

 

おでんを口に運び燗酒をすすると、心身ともにコリがほぐれていくのを実感できます。器に残ったおでんつゆを飲み干したら熱燗をまたぐいっといきます。知らぬ間に酒量が増えていく、まさに“酒呑みのためのおでん”です。 

酒は高知の司牡丹純米辛口のみ。味がよく染みたおでんと。

酒は高知の司牡丹純米辛口のみ。味がよく染みたおでんと好相性な日本酒。

 

突出しには、八丁味噌、信州みそ、白味噌を使った鯛味噌の田楽(大根)や、うるめ焼きなど。店内に流れる緩やかな時間の中で、肴と酒をゆったりと味わえる名店です。

『名代おでん安兵衛』
住所/福岡県福岡市中央区西中洲2-17
電話/092-741-9295
営業/18時~23時(18時~19時入店の場合は予約可)
定休/日曜

 

文/関屋淳子
撮影/松隈直樹 

 

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