蟹好きにはたまらない季節がやってきました。中国の上海蟹(イワガニ科の蟹の一種)も、シーズン最盛期を迎えています。今回訪れたのは、名古屋・栄にある中国料理店『JOE’S KITCHEN』(ジョーズ キッチン)。化学調味料は一切使用せず、点心なども皮から手づくり。体にやさしい料理を提供する人気店です。
秋が深まると、同店が力を入れるのは上海蟹の料理。仕入れるのは、中国でも名産地として知られる、陽澄湖(ようちょうこ)産のブランド蟹です。高値で取引されるため、ブランド偽装が行なわれないように、タグや紐のデザインを毎年変え、トレーサビリティ(栽培や飼育、加工・製造・流通などの過程を明確にすること)が徹底されていることでも知られています。
この上海蟹の味わいに惚れ込んだ同店シェフの神農猛(じんのうたけし)さんは、ある工夫を凝らしていると話してくれました。
「空輸される蟹は生きていますから、長時間の移動でストレスがたまっています。そこで、届いた蟹を独自の手法で数日間休ませます。蟹がリラックスして、体液もきれいに入れ替わり、おいしくなってから調理しています」(神農シェフ)
こうした工夫で提供される上海蟹の美味しさが評判を呼び、この季節になると全国から予約が入り、遠方からも訪問客が絶えない名店に成長。今年から、10~12月は期間限定で「上海蟹コース」のみを提供するようになりました。コースは8000円、1万円、1万3000円の3種類(税別)。今回は、1万円のコースに、「雄・雌の蒸し蟹」の食べ比べ(追加料金3500円、10月まで)をプラスしました。では、その内容をご紹介しましょう。
蒸す前の上海蟹を愛でる
コースが始まる前に、まず蒸す前の上海蟹が運ばれてくるので、じっくり眺めて愛で楽しみます。黄色のタグは、陽澄湖ブランドの証。また、丸い認証タグにはトレーサビリティについてのデータが内蔵されているそうです。紐でしっかり結ばれていますが、ぴくぴくと動いており、新鮮さが伝わってきます。
雄と雌の違いがはっきりとわかるのは、お腹。雄のお腹には三角形をした、通称「フンドシ」と呼ばれる部分がありますが、雌にはありません(上の写真は手前が雄)。
前菜3品と上海蟹の紹興酒漬け
蟹が蒸されている間に、前菜を楽しみます。柔らかい砂肝の和え物、食感のいいクラゲ、そして花椒をきかせた煮たハチノスは、いずれもお酒がすすむ味に仕上がっています。
そして、神農シェフ自身も大好物だという「上海蟹の紹興酒漬け」は、同店の看板メニュー。毎年、レシピを研究し続けているのだそう。とろりと舌に広がる雌の卵の味は、とにかく濃厚。紹興酒が強すぎないので、お酒が弱い方でも楽しめます。
ほどなくして、待望の上海蟹の姿蒸しが湯気を立てながら運ばれてきました。すると、「熱々のうちに、召し上がってください」と、シェフの奥様である、マダムの由利恵さん。
「蒸し蟹のおいしさは“味噌”なんです。シェフは蒸し加減にはとりわけ気を遣って、卵もとろりとほどよい半熟に仕上げています。のんびりしていると余熱で火が入りすぎてしまいますので、脚は後回しにしてくださいね」(由利恵さん)
卓上には、ひとりひとりにキッチンバサミと蟹用フォークが用意されているので、説明に従って蟹を解体し味わいます。