徳島県上勝町は、料理の飾りに使う木の葉を商品化し2億円産業に育て上げた「葉っぱビジネス」で有名な山村です。その勢いでゴミ排出ゼロ運動や若者定住事業などにも精力的に取り組み、全国からの視察が絶えません。
そんな注目度ナンバーワンの上勝町ですが、高齢過疎化は静かに進みつつあり、住民の数は現在2,000人を切っています。
この小さな町で人々の元気の拠り所になっている場所が、勝浦川を見下ろす県道沿いの小さな直売所『いっきゅう茶屋産直市』です。
入ってまず目に留まったのは「はんごろし」という物騒な商品札。それは、おはぎのような菓子でした。半分ほどに潰したもち米にうるち米を混ぜた餅を、粒餡にくるみ、黄粉をまぶしたものです。もち米を半分潰す、あるいは粒餡を使うことから「半ごろし」と呼ばれるとのこと。
どこかで聞いたことがある話です。思い出しました。子供の頃に聞いた落語の枕です。
旅の若者が年寄り夫婦の家に泊めてもらったところ、夜中にこんなひそひそ話が聞こえてきました。
「半ごろしにすべえか、それとも手打ちがええだか」
「あの男はまだ若い。半ごろしがええじゃろう」
明日のもてなしを甘い餅にするか、蕎麦にするかという相談だったのですが、それを聞いた若者は青ざめて逃げ出したという笑い話です。
民話を元にした噺らしいのですが、その「半ごろし」が今も実際に残っていることに驚きました。ちなみにはんごろし文化圏の中には、漉し餡バージョンもあり、その場合は「みなごろし」と呼ぶそうです。
手づくりの粒餡は甘さ控えめ。黄粉にほんのり加えられた塩との相性は抜群で、2つ、3つと手が出てしまうほどの美味しさでした。
もうひとつ珍しい郷土食を発見しました。玄米を煎った「焼米」(やこめ)です。
お湯で10分ほどふやかすとご飯状に柔かくなる、元祖フリーズドライ食品です。もともとは旅や戦場で活躍した携行食だったといいます。今でも作り継がれている地域は少なく、他県からわざわざ買いに来る人もいるそうです。
玄米ならではの香ばしい香りが特徴で、試してみたらリゾットにもよく合いました。
ここ上勝町には、町内から出たまだ使える不用品をリサイクルする「くるくる市」という仕組みがあります。いっきゅう茶屋の店先にも小さな出張所があり、来店者が自由に持ち帰ることができるようになっていました。
以上、今回の「直売所マニアックス」は徳島県上勝町の「いっきゅう茶屋産直市」をご紹介しました!
いっきゅう茶屋産直市
住所/徳島県上勝町大字福原字日浦76-12
電話/0885・46・0198
営業時間/8時30分~16時30分
定休日/火曜日
文・写真/鹿熊勤(かくまつとむ)
茨城県生まれ。ナチュラルライフ、一次産業・モノづくりなどの分野で執筆活動を続ける。『サライ』には創刊から参加。旅先の農産物直売所で、ご当地食あふれる食べ物を発掘するのが趣味。著書に『糧は野に在り』(農文協)、『葉っぱで2億円稼ぐおばあちゃんたち』(小学館)