【直売所マニアックス】第3回 道の駅たるみず 湯っ足り館(鹿児島)
コンビニほどではないけれど、スーパーと肩を並べるくらいに多い店、それが「農産物直売所」です。平成21年度の農林水産省統計によると全国におそよ1万7000か所あり、年間総売り上げは8800億円にのぼるそうです。
直売所は、「生産者自身が商品を売り場に並べる」「値段は自分の裁量で決める」のが基本。生産者は大きさや見かけのよさといった規格に縛られずに、好きなものを育て、値付けも自分の考えでお客さんに提案することができるというわけです。一方、利用者の利点は、農家が直接持ち込むので新鮮なうえに値段が安いこと。ときには野菜を並べにきた農家から、とっておきの食べ方を教えてもらえることもあります。そして、街のスーパーにはない個性的なものが買えることも、直売所ならではの大きな魅力です。
そんな直売所は、いわば文化の窓。全国各地の農産物直売所で目についたモノやコト、気になった味などを紹介します。
直売所の魅力といえば、なんといっても採れたての野菜や果物。最近は加工品のレベルも上がり、都会の高級店のジャムやフルーツソースに負けないほどおしゃれな瓶詰めも見かけます。
これらのコーナーはもちろんですが、私が欠かさずチェックするのは、地元の小さな店やお母さんたちが、手づくりのお弁当やおかず、菓子を並べている惣菜売り場です。生鮮品などのコーナーに比べるとはるかに小さく雰囲気も地味ですが、都市部では見ることのない珍しい味を発見することがあります。
もちろん、スーパーやコンビニで売っているようなものばかりで、空振りに終わることも少なくありません。そのぶん、掘り出し物を見つけたときのうれしさは格別です。
錦江湾を望む鹿児島県大隅半島の『道の駅たるみず 湯っ足り館』でも、そんな楽しい出会いがありました。
惣菜コーナーに並んでいる商品を眺めていたとき、とても不思議なお菓子が目に留まりました。瞳のような形をした木の葉の間に、小豆色をした扁平の団子がはさまれています。パックのラベルには「けせんだんご」と書かれていました。
団子や、餅を葉でくるんだ菓子といえば、笹団子や桜餅、柏餅がおなじみ。地方によってはサルトリイバラの葉で包んだ団子を柏餅と呼ぶことがありますが、こんな形の葉っぱにくるまれたお菓子を見るのは初めて。
売り場の人に聞くと、けせんとはクスノキの仲間の“ニッキ”とのことだそうです。
パックを開封すると、あたり一帯に漂うほど強く爽やかな香りに驚かされました。それもそのはず、ニッキとは肉桂=シナモン。けせんだんごとはつまり、シナモンの葉でくるんだ団子というわけです。
団子は餡と米粉を一緒に練りあげたもので、歯切れのよい独特の食感です。あっさりした団子の甘さにシナモンの香りがよく合います。鹿児島の名産としてはメジャーではありませんが、昔から地元で愛されてきた庶民のおやつだとか。芳香成分(精油)を含むけせんの葉で団子を包むことで、風味が増すだけでなく保存性も格段によくなるそうです。
たるみず湯っ足り館は温泉付きの道の駅です。錦江湾や桜島の景色を眺めながら入る天然温泉は地元の人にも観光客にも大人気で、湯っ足りという名前が示すように日本最大級の足湯も気軽に楽しめます。
【道の駅たるみず 湯っ足り館】
住所:鹿児島県垂水市牛根麓
電話:0994・34・2237
直売所営業時間:午前9時~午後7時
定休日:無休(温泉は毎週水曜日)
文・写真/鹿熊勤(かくまつとむ)
茨城県生まれ。ナチュラルライフ、一次産業・モノづくりなどの分野で執筆活動を続ける。『サライ』には創刊から参加。旅先の農産物直売所で、ご当地食あふれる食べ物を発掘するのが趣味。著書に『糧は野に在り』(農文協)、『葉っぱで2億円稼ぐおばあちゃんたち』(小学館)