取材・文/編集部
長野県茅野市、八ヶ岳を見晴かす標高1200メートルの高原に、小さな木工房がある。ここでたった一人で独創的な木製小物を作り続けているのが「Maverick Woodplayer」代表の永易真門さんだ。
永易さんがこの地に移り住んだのは20年前のこと。家具メーカーの営業職として木製家具の販売を担っていたが、せっかくの自然素材を扱いながらも“寸法”に縛られた世界に違和感をいだいて7年前に独立。自宅に小さな工房を設け、伐採のアルバイトを通じて集めた端材をつかって、ペンダントや食器などの小物を作り始めた。
家具販売を通じて木材についての知識は持っていたが、木工については素人。道具を揃え、独学で木工技術を習得していった。
「妻には5年で目が出なければきっぱり辞めると宣言していましたね(笑)」
永易さんが使用する木材の樹種は、栗(クリ)、楓(カエデ)、槐(エンジュ)、樅(モミ)、欅(ケヤキ)、山桜(ヤマザクラ)、白樺(シラカバ)、一位(イチイ)、檜(ヒノキ)という日本ならではの9種類のみ。小さな部材でも木目や色味の区別がしやすい樹種を選んだという。
「魚や鳥についてはいろいろ知られているのに、木の違いはあまり知られていません。だから小さくても日本の木々の豊かさを感じてもらえる物を作りたいのです」と永易さんは語る。
そんな永易さんが生み出す木工作品は、ひとつひとつが異なる表情を持つ。
「寸法は、取らず、測らずです。使う木はみんな野の木ですから、キズがあったり虫に食われていたりします。それをどう活かすか、寸法を変えてどう合わせるかが大事だと思っています。だからこそ、一個ずつに作り手としても驚きと新鮮味を感じています」
たとえば奥様が働いているアロマショップに並べるため製作した、可愛らしい小さな木のアロマペンダントは、永易さんのモノづくりの精神を象徴するような作品だ。ひとつひとつ異なる造形ながら、全体として統一感がある。それはあたかも、秋の森で多様な木の実を見るかのようだ。
あるいは、とある山小屋の依頼で製作した木のコップ。水を通しやすいためコップに使われることはまずないという栗材を刳り抜いて作った、ぽってりとした肉厚のコップは、大きさもまちまち。指をかける突起部分には、それぞれ微妙に異なる表情が浮かび、どれを選ぶか迷ってしまう。寸法の決まった規格品にはない、手作りならではの“物の個性”という魅力がそこにはある。
「あるときリンゴ農家の方からリンゴの形をしたアロマディフューザーを作ってほしいと依頼されました。その方が個人で使うためのものでしたが、作ってみたらなかなかよいものができました」と永易さんが見せてくれたのが、リンゴ型のアロマポット。
前出のペンダントと同様に、檜のピンを抜いてアロマオイルを注いでおけば、木の導管を伝って芳香成分が周囲に拡散される。マルシェなどで販売すると、コロンとした可愛い形にひかれてアロマをやらない人も買っていくという。
もうひとつ、永易さんの木工品を特徴づけるのが木目の方向だ。たとえばペンの軸。一般的には縦方向に模様が出るが、永易さんの作るペンは輪切りにしたように横方向に模様が出る。
「木工の常識では隠すものとされる木口(材軸に直角な断面)をあえて見せる方向で木材を使っています。僕は勝手に“裏杢”(うらもく)と呼んでいますが、これが思いがけない効果を見せてくれるんです」。
たしかに裏杢のペン軸を回転させると、表面に不思議な光沢が現れる。「木というより石みたいでしょ。たまたまペンダントを作っていて気がついた効果です」と永易さん。偶然が生んだ奇跡の光沢だ。
工房を満たす柔らかい光、旋盤で木片を削る音、木屑のよい香り、そして訪れる静寂のとき。手を止めた永易さんは「この近くには鳥がよく来るんです。とくにクロツグミの声はすばらしい。鳴き声が聞こえたら、機械を止めて耳を傾けます」と微笑む。
これから作りたいもののストックが、頭のなかに作りきれないほど詰まっていると語る永易さん。信州の豊かな自然に囲まれた小さな工房では、今日も永易さんと木片との遊戯が繰り広げられていることだろう。
取材・文/編集部
※ Maverick Woodplayer ウェブサイト
http://woodplayer.com/index.html
※今回取材した永易真門さん(Maverick Woodplayer)の木製デスクペンとリンゴのアロマポットは小学館の通販メディア「大人の逸品」で販売しています。
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