文/中山遥希
「老後のための資産形成を考えてみましょう。定期預金よりも高い利率で大きなリターンが見込めるのが投資信託です」……と、金融機関の窓口のみならず、新聞広告やインターネット広告でも幾度となく目にする投資信託。いざ購入しようと思って色々な投資信託のファンドを調べていると、リターンの大きさや分配金の有無・金額ばかりに目が行ってないでしょうか。
もちろんリターンや分配金は重要な情報ですが、より良い投資信託を見つけるために「シャープ・レシオ」という便利な指標があることをご存知でしょうか?
「シャープ・レシオ」とは、「リスクの大きさに対して、どのくらいのリターンが出せているか」を示した数値であり、投資信託の運用効率がわかる指標です。
■シャープ・レシオの求め方
どんな金融商品にも必ず、リターンがマイナスになってしまうリスクが含まれています。だからこそ投資判断には、少ないリスクでより大きなリターンを得られるかどうかが重要です。その判断に、「シャープ・レシオ」は有用です。
「シャープ・レシオ」は、「投資信託の超過リターン」を「ファンドのリスク」で割った値です。式で表すと以下のようになります。
「超過リターン」とは、投資信託のリターンから無リスク資産(日本国債の年利など)を引いたものを表していますが、なれるまでは、投資信託の案内に表示されているリターンと読み替えても問題ありません。
また「ファンドのリスク」とは、リターンの大きさの振れ幅のことを言います。例えばリスク10%と書いてあれば、+10%から-10%の間でリターンが変動するということを意味しています。
なかなか難しいように思うかもしれませんが、リターンをリスクで割り算しているので、「リスク一つあたりどのくらいのリターンが出ているか」を調べているに過ぎません。シャープ・レシオの値が大きいと、取ったリスクに対して大きなリターンが得られていて、ローリスク・ハイリターンの状態になりますから、運用効率が高いと覚えておけば結構です。
例えば、年利5%を生み出せる定期預金と、年利5%を生み出せる投資信託を比べてみます。どちらも同じ利回りとはいえ、定期預金のほうがリスクが低いため、シャープ・レシオは“大きく”なります。この2つを見比べると定期預金を選択したほうがよくなります。
■シャープ・レシオの正しい使い方
投資信託を選ぶときに、わざわざシャープ・レシオを計算する必要はありません。証券会社の投信検索ページには「シャープ・レシオ」の値が記載されていますから、その数値を頼りに確認すればよいです。
ただしシャープ・レシオを見るときに注意しなければならない点がいくつかあります。
(1)指標値は過去の実績なので未来を予想する数値ではない
結局リターンの大きさとその時に取ったリスクの大きさで評価していますので、期間ごとの運用効率を評価している数値に過ぎません。できるだけ長期間、最低でも1年以上の期間でのシャープ・レシオを比較しましょう。
(2)利回りがマイナスの場合は、リスクが大きいほどシャープ・レシオが大きくなってしまう
例えば、リスクが10%の投信Aと20%の投信Bの利回りが共に-10%だった場合、投信Aのシャープ・レシオは-1(-10÷10)になりますが、投信Bのほうは-0.5(-10÷20)になります。利回りがマイナスの投信を比べるときは、シャープ・レシオが小さい(マイナスの値が大きい)投信のほうがリスクが小さいことに注意しましょう。
(3)もともとの設定がハイリスク・ハイリターンなのかローリスク・ローリターンなのかはわからない
シャープ・レシオは利回りをリスクで割り算して計算しています。利回りとリスクの大きさが同じだと、シャープ・レシオが1になるので、ハイリスク・ハイリターンなのかどうかはわかりません。例えば、リスクが15%で利回りが15%のハイリスク・ハイリターンの投信と、リスクが1%で利回りが1%のローリスク・ローリターンの投信は、共にシャープ・レシオは1になります。投資信託の投資先が似ていないと評価しずらいといえます。
これらの注意点を踏まえると、投資対象が似ている投信同士を並べて、高い投資効率を維持できている投信がどれなのかを見極めるときにシャープ・レシオを使えばよいことがわかります。
たとえば期間によってこの値が大きく変動している場合は、その商品が取った大きなリスクがよい方向にはたらいてリターンが大きかったとも読めます。ただし、偶然大きなリターンが得られたということは、大きな損失を被る可能性があるともいえます。
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以上、今回は投資信託の運用効率を調べる際に有用な指標である「シャープ・レシオ」についてご紹介しました。もちろんシャープ・レシオの値の大小という効率性だけではなく、運用の安定性にも目を向けて商品を選ぶようにしてください。
このシャープ・レシオに注目することで、投資信託の目利き力はさらに高まります。判断基準のひとつとして、ぜひご注目ください。
取材・文/中山遥希
銀行と証券会社でのプロとしての商品サービス企画経験と、自らの投資活動の経験とを通して、金融機関と消費者の双方の目線からマネーについての記事を執筆している。