取材・文/小坂眞吾(サライ編集長)
毎月『サライ』の発売日にあわせてサライプレミアム倶楽部の皆さんにお送りしているメールマガジンでは、毎回、私の「編集後記」的な一文を載せている(読んでみたいという方はぜひ会員登録を!)が、去る10月10日配信のメルマガにも書かせてもらったとおり、いま私が困っているのが「老眼」である。
遠近両用のメガネを作ってはみたものの、使いづらいうえに疲労感も大きいので、結局使わずじまい。スマホや読書のときはメガネを外し、テレビやパソコンを見るときに掛けるという、せわしない日常生活を強いられている。
これが趣味の日曜大工にも深刻な影響を与えていて、クギ1本打つにも、位置決めのときはメガネを掛け、いざ打つときはメガネを外し、と、これでは仕上がりのクオリティもままならぬ。
そんな経験もあって、発売中の『サライ』11月号では「『老眼』と賢くつきあう方法」という特集を組み、老眼に対処するには「遠近両用」のほかに「中近」「近近」という選択肢があること、外出か家の中かなど状況に応じて複数のメガネを使い分けること、などを提案させていただいた。
もちろん「遠近両用メガネ」は万能には違いないのだが、レンズの中で手元の見える範囲がごく限られるため、使いこなすには慣れが必要になる。慣れることができない私のような人間にとっては、複数のメガネの使い分けが、今のところ最良の選択なのだろう。
……ところが、である。東京ビッグサイトで開催されている『国際メガネ展(iOFT2017)』(10月11日~13日開催)に行って驚いた。ふだんは遠くまで見えるフツーのメガネが、ツルのテンプルにあるセンサーに触れるだけで、手元が見えるリーディンググラスに早変わりするという画期的なメガネを発見してしまったのだ。
三井化学が展示していた「TouchFocus™」なるメガネである。
レンズの焦点距離を瞬時に切り替えられる秘密は、レンズの中央やや下に埋め込まれた「液晶レンズ」にある。
スイッチOFF(電圧をかけない状態)では、液晶レンズの屈折率は周囲のレンズとほぼ同じ。境目を意識することなく、レンズ全面にわたって遠くが見える。ところがテンプルにある矢羽根型のセンサーにタッチしてスイッチON(電圧をかける状態)すると、液晶素子が立ち上がり、屈折率が下がって、手元に焦点が合うようになる。このとき、手元の見える範囲は「遠近両用」に比べて広く、スマホの文字もストレスなく読める。これで電車の中でのヤフオク入札も、自由自在だ(目下オールドレンズにハマっている私的には、これがけっこう重要なんです)。
液晶レンズは、レンズ内部にあらかじめ埋め込まれているので、周囲のレンズの仕様は自由に選べる。たとえば、周囲のレンズを「遠中」の累進レンズにしておけば、スイッチONで手元が見えるので、「遠中」+「近」の万能レンズになる。従来の「遠近」と違うのは、「遠」「中」「近」それぞれの見える範囲が広くて、ストレスを感じにくいということだ。
この「TouchFocus™」は、来春をメドに一部のメガネ店で発売される、らしい。「らしい」というのは、ただいま商談中で、具体的なことは何も決まっていないから。とはいえ、日本人の年齢の中央値は46歳。老眼を自覚し始める世代がセンターということは、「日本人の半数は老眼」と言える状況にある。この魔法のメガネに注目が集まるのは間違いない。
気になるお値段も当然未定だが、メガネ展で取材したところでは「最高級の累進レンズ付きメガネより少し高い程度」だとか。そこから推測するに、10万円を切ってくれたら嬉しいなあ、と思った次第である。
取材・文/小坂眞吾(サライ編集長)
※発売中の『サライ』11月号では、生活特集「『老眼』と賢くつきあう方法」を掲載しています。老眼対策やメガネの正しい選び方など、サライ世代にとって気になる情報・知識をたっぷり盛り込みました。