「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てた、58歳の鉄道カメラマン川井聡さん。南九州の枕崎駅から、北海道の最北端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅が始まった。
7日目は山形県、鶴岡駅を出発、青森県のウェスパ椿山駅を目指す。
発売中の『サライ』8月号では「青春18きっぷ」の旅を大特集! 川井さんの旅の全行程も載っています。
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《7日目》鶴岡 9:00 ~ 酒田 9:31
7日目の朝は、庄内平野を実感する民宿で目覚める。見上げたら青い空だけ。「あっちが鳥海山で、こっちが月山。こんなに両方見えるのも珍しいねぇ」女将さんが庄名訛りで教えてくれる。このまま、しばらくこの街に泊まってしまおうかと思うくらい、きれいな空。
朝食は自家製の梅干し、味噌、御飯。どれも素晴らしく美味しい。なにしろここの食事は、地元の作物で満たされてるのだ。朝から庄内の豊かさをいただいて、宿を発つ。
それにしても驚くほどの快晴。昨日よりもひたすら青い空に感謝しながら、鶴岡駅に到着。ここから7日目の旅が始まる。
今日の一番列車は、新潟を6時16分に出発してきた酒田行きのディーゼルカーだ。車両はキハ110と、新潟地区のニューフェイス、キハE120が連結されている。
鉄道に限らないが、旅を彩ってくれるのはさまざまな出会いだ。これまで九州の学生たち、東海道山陽路のご夫婦づれ、木曽路を旅するグループ、会津の老夫婦、そのほか書き切れない人たちと出会ってきた。話をし、写真と撮らせていただくうち、キーワードが見えてきた。それは「仲良し」。陳腐なようだけれど、大事な基本だと改めて気づかされる。この先どんな「仲良し」と逢えるのだろう。
鶴岡駅を出発してすぐ、赤川に架かる鉄橋を走る。単線だけどかなりごっついトンネルみたいなトラス橋。JR東日本の宣伝ポスターに出てきそうな、味のある鉄橋である。
鶴岡から酒田を通って吹浦までは、ひたすら庄内平野を突っ走る。右後ろには月山、前方には鳥海山、その間は広大に広がる農地。奇岩や急流はないけれど、紛れもない絶景区間だ。
やがて前方から「いなほ」6号がやってきた。ここを走る特急に、これほどぴったりの愛称はない。
9時15分、余目駅に到着。なんだか楽しそうな雰囲気で、高校生のグループが乗ってきた。
高校生グループは、これから酒田まで試合のサポートに行くという野球部員。今日は自分たちの試合じゃないけど、試合の運営を手伝いに行くのだという。
他校の試合の時には手伝って、自分たちの試合の時には他校が手伝ってくれるシステムなのだとか。「あっちも撮ってあげてくださいよ」とオススメの声でもうワンカット。
《7日目》酒田 9:35 ~ 秋田 11:25
酒田駅で秋田行きの列車に乗り換え。ここからの車両は701系。乗り換え時間は4分。陸橋を渡って乗り込んだら、すぐに発車だ。それにしても、今日はどこまで行っても空が青い。
車内は、シンプルなロングシート。国鉄時代の車両に比べコストカットに徹したようで、軽量な車体や簡素な内装だ。
登場した当時、レンズ付きフィルムになぞらえて「走ルンです」と揶揄されたこともある。シンプルと言うより味気ない客席。正直なところ、それほど楽しめる気がしない車両でもある。
鳥海山の麓にある遊佐駅に到着。この付近から先は、日本海の海岸沿いを走る。鳥海山が圧倒的な近さで迫っている。
この駅で下車するおじさんが「こんなに綺麗に山が見える日は珍しいよ。今日はこれからここで鳥海山を撮るの」と教えてくれる。「もったいないよ、こんな天気に撮らなきゃ」と誘われるが、ここで下車すると五能線回りのルートには乗れなくなる。残念ながら涙を呑む。
遊佐駅を出ても、鳥海山は美しい姿を見せている。
車内を回ってきた車掌さんによると、「初夏は山がよくみえる。空気が安定しているからでしょう」とのこと。いい景色ですね、と褒めると「(羽越線も綺麗だけど)自分なんかは奥羽線から見た方が好きですね」という。晴れた日に横手付近から眺めると、連山の彼方にひときわ高く鳥海山がそびえて見えるのだそう。
奥羽線からの景色も眺めてみたいが、今日は青空と鳥海山を堪能する。通路を挟んで反対側の席から眺めると、パノラマスクリーンのようになった。この窓一杯に広がる山の姿も捨てがたい。
しばらくこうして眺めていると、「走ルンです」こと701系の窓が楽しくなってきた。窓のピラー(柱)は少々邪魔だが、クロスシートの背もたれがない分、景色をワイドに楽しめる。窓際で見るより、景色を広く感じられるようだ。折からの青空のおかげか、新たな車窓の楽しみ方を発見できた。
これだけ晴れた空なら、今日の夕陽はきっとすごいはず。今日は青森まで行くのは諦めて、五能線の途中で降りて海岸沿いの宿に泊まろうと予定変更。運が良ければ奇跡の太陽「グリーンフラッシュ」でも見えるんじゃないかと、期待を心に抱く。
やがてワイドな窓に現れたのは、由利高原鉄道のディーゼルカー。緑のモザイク柄が綺麗な車内には着物姿の女性の姿。観光列車のアテンダントさんが乗車しているらしい。
羽後本荘駅を過ぎたころから、車内は4~50人くらいのお客さんで埋まってきた。こうなるとさっきのようなパノラマ車窓を楽しむわけにも行かない。ワクワクが薄れるとお約束の眠気がやってくる。頑張ってはみたものの、気づけば睡魔に負けてしまい、まどろむうちに、気付けば秋田駅に到着していた。
向こうのホームに秋田新幹線「こまち」が赤い屋根を光らせていた。
秋田駅で男鹿線のホームに停まっていたのは、架線なしで走れる蓄電池電車「アキュム(accum)」。2017年3月に導入され、これから続々投入される予定らしい。大容量のバッテリーを持ち、要所要所で充電して走るシステム。今後「ディーゼルカー」は過去のものになっていくのかもしれない。
ホームではお兄さんが駅弁を立売していた。これはうれしい!
寝台特急「あけぼの」が走っているころは、わずかな停車時間にみんな競い合うように駅弁を買っていた。今ではそんな列車はなくなったが、ホームの立売は健在だ。「今年は夏になったら、あるコスプレして売ることを計画してるんですよ」と秘密を打ち明けてくれた。
秋田駅の跨線橋は、さしずめ小さな鉄道博物館。何台ものライブスチーム蒸機や、本物の部品が展示されていた。
乗換の時間を利用して途中下車し、駅前の「市民市場」へ行ってみる。獲れたての新鮮な魚とともに、巨大な岩ガキが並んでいた。旬はもうすこし先だけど、今でも十分おいしいよ!と勧められ、その場で買って一つ、二つと口にする。磯の香りとクリーミーさに、つい数が進んでしまう。
カキと共に食べたかったのが、駅前のラーメン。塩辛そうで辛くなく、脂っこそうでサッパリしてる。一度食べたら、なぜかまた食べたくなる一杯。ラーメンの事は詳しくないけど、ラーメン好きにはかなり有名な店らしい。
発車時間が近づいてきたので、再び秋田駅へと戻る。
ちょっと街歩きをのんびりしすぎたおかげで、発車時間は迫っていた。そんなときに見つけた秋田駅のミステリー。一番手前は5・6番線 次が7・8番線 その向こうは3・4番線。だけどホームは1~8の順に並んでる。どうなっているのだ?
発車時間も迫ってきたので、降りてその謎を解決する時間もないまま、先を急ぐ。