文/柿川鮎子
大好きな犬と遊ぶ時間はかけがえのない大切なもの。犬の喜ぶ姿を見るのも楽しいし、飼い主もだんだん熱中してきて、犬に遊んでもらっているような気がしてくるから不思議です。夢中で遊んだ後はすっきり爽やかな疲労感で満たされた上、互いの絆が深まっているような気がします。
子犬時代に飼い主とたっぷり遊んだ経験のある犬は、成長してからも人を信頼し、飼い主の言うことをよく理解できる犬になります。むだに吠えたり咬みつくような犬にしないためにも、犬と「正しく」遊びましょう。子犬時代に正しく遊ぶことができれば、家庭でのルールをきちんと身に着けることができて、賢いコンパニオンドックになります。
正しく遊ぶためには、4つのルールがあります。問題はその遊び方。遊びの内容はボール遊びでもかくれんぼ遊びでも、犬が大好きな遊びで構いません。遊びの4つのルールを守ることで、犬は遊び相手である飼い主をリーダーであると認識でき、飼い主の指示に従うようになります。
これは「犬の気持ちが判断できるカーミングシグナル6つの仕草」でも紹介した上下関係認識の実践です。
■1:引っ張り遊びはしない
洋服の袖口や足元からズボンの裾をかじって引っ張られた経験はありませんか?そのまま引っ張り遊びをしてしまうと、犬は相手の力加減を知り、人間より自分の方が上位にいるリーダーであると誤解してしまう場合があります。引っ張り遊びはやめましょう。
■2:遊びのスタートと終わりは人が決める
遊ぶ時は、「遊ぼう」と声をかけたり、大好きなボールを見せるなど、合図を決めて飼い主がスタートさせます。遊びを始めるのは必ず飼い主であると認識させることで、自分がリーダーシップをとらなくてもよいと理解できます。
始まりだけでなく、終わりの合図も決めておきます。「お終いだよ」「今日はここまで」といつも同じ言葉をかけ、ボールやおもちゃを取り上げ、棚の高いところに置きます。犬が遊びたいといつまでもぐずぐず甘える場合は後ろを向いて無視をして、別の部屋に行ってしまいましょう。
■3:どんな場合でも人が勝つ
犬は自分が家族の中でどの位置にいるのかを認識できないと問題行動をおこしてしまいます。飼い主がリーダーシップをとれないと、犬は自分がリーダーとして人を先導しなければならないと誤解します。
その結果、飼い主を守るために他の犬に吠えかかったり、飼い主に勝手な行動をさせないように咬みついてくる。そうやって犬はリーダーの役目を必死に果たしているのです。犬にとっては大変な苦労だし、飼い主は迷惑だし、犬がリーダーになると良いことは一つもありません。
遊びは順位を認識させる良い機会となります。ボール遊びでは最後にボールを取って勝つのは飼い主です。子犬が大好きなプロレスごっこでも人が勝ちを決めます。子犬をやさしくひっくり返してお腹を上にして、お腹を撫でたり優しくポンポンして終わります。必ず人が勝つように遊びましょう。
■4:咬むのはおもちゃだけ
力の弱い子犬だからといって、人の手や指を咬ませてはいけません。咬むのはおもちゃだけ。おもちゃでない物を咬んだらその都度取り上げ、犬が届かない場所に置きます。咬んでよいのはおもちゃだけであるというルールを教えてあげましょう。最初はわからなくても、何回も気長に、根気よく続けるのがコツです。絶対に例外を作ってはいけません。
有史以来、人は犬を何らかの役に立つように作出してきました。湯たんぽがわりに使うために毛のない犬を作ったのです。中世の貴族がノミやダニから自分を守るために抱く犬を作出した歴史もあります。
主に犬は猟犬として人の役に立ってきました。吠えて獲物を追い、捕らえるように、よく吠える犬同士を掛け合わせました。日本でもしっかり咬みついて獲物を捕る犬こそ、優れた犬であると考えられた時代もありました。
今、家庭では犬を湯たんぽにつかったり、ノミ・ダニよけにしたり、吠えて獲物を穴から追い出す目的で飼育しているわけではありません。一緒に暮らす家族、愛すべきコンパニオンドックです。その犬が作出された目的のまま、犬の本能のままに行動させるのではなく、家族としてのルールに則って行動してもらう必要があるわけです。
犬との遊びはそのルールを知るための絶好のチャンス。正しく遊ぶために必要な4つのルール。ぜひ今日から実行してみてください。
【参考図書】
『愛犬を長生きさせる食事』
(林文明著、本体1000円+税、小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09310837
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。