文・取材/山内貴範

奥羽山脈の麓に広がる秋田県羽後町。この町の中心部・西馬音内(にしもない)地区で食べられているそば「西馬音内そば」が、そば好きの間で密かな人気を集めている。

人気の理由は、その独特な供し方。一般的に“かけそば”といえば、熱々の汁をそばにかけるスタイルを思い浮かべるだろうが、ここ西馬音内そばの特徴は、汁が冷たい“冷がけそば”だ。つなぎに“ふのり”を使ったそばは、喉越しなめらかで歯ごたえもよい。

町の中心部に架かる二万石橋のたもとに店を構える「弥助そばや」は、そんな西馬音内そばの元祖。文政元年(1818)の創業で、来年で創業200周年を迎える歴史を持つ。

「弥助そばや」で、昼時に人気の「ひやかけそばと天ぷら」は1080円。他に小鉢と漬物がつく。

「弥助そばや」は西馬音内の中心部に小ぢんまりとした店舗を構える。

 

土日にもなると、用意したそばが早々に完売する名店ながら、店の規模は小さいまま。移転を検討したこともあるそうだが、この場所にこだわるのには理由がある。

「湧き水が豊富なのです。この水を使わないと、うちの味は出せない。お客さんには不便をかけて申し訳ないのですが、今の場所で味を守っていきたいと思いますね」と話すのは、6代目の主人・金昇一郎さんだ。

町内には、西馬音内そばを提供する店が8店ある。弥助そばやで修行したそば職人が開いた店が多い。

「弥助そばや」から徒歩約10分・羽後町役場の隣に昨年オープンし、7月1日で開業1周年を迎えた「道の駅うご」内の「端縫いダイニング」では、金さん直伝の西馬音内そばを味わえる。

「道の駅うご」の「端縫いダイニング」は、道の駅の目玉。休日は多くの家族連れで賑わう。

「端縫いダイニング」の西馬音内そばは、並1杯550円~。天ぷらなどのトッピングもできる。

「金さんのこだわりから、すべて蕎麦は手打ちの麺を使っています」と話すのは、道の駅“駅長”の小坂圭助さん。

開店前は、製麺機を使った麺で提供する計画もあった。しかし、道の駅は羽後町の玄関口でもあり、妥協はできなかった。小坂駅長も金さんの元に通い、そば打ちの技術を1か月学んだそうだ。

道の駅では、町内のそば店を紹介する「そばマップ」を配布している。

「店ごとに汁の味や、そばのコシも異なります。道の駅だけでなく、ぜひ他店でも食べ比べを楽しんでいただきたいですね」と、小坂さん。

現地を訪れたら、ぜひマップ片手に町内を散策し、そばの食べ歩きを楽しみたい。

※価格は税込み表示です。

【弥助そばや】
所在地:秋田県雄勝郡羽後町西馬音内本町90
電話:0183-62-0669
営業:11:00~13:30頃(蕎麦がなくなり次第、閉店)
休み:不定休
アクセス:JR湯沢駅からタクシー約15分。

【道の駅うご 端縫いダイニング】
所在地:秋田県雄勝郡羽後町西馬音内字中野200
電話:0183-56-6128
営業:11:00~16:00(土・日曜・祝日は~16:30。11月~3月は~15時、土・日曜・祝日~16:00)
休み:1月1日
アクセス:JR湯沢駅からタクシー約15分。

文・写真/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。

 

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