
「サザエさん」の作者として知られる長谷川町子さんのところには「世田谷区フグ田サザエ様」で手紙が届いたという話を聞いたことはありませんか? 昔、住所とは人が住んでいる場所を示すものでした。しかし、人口が増えたことでそれでは立ち行かなくなり、新たに場所を示すための制度が導入されました。
ところがそれが混乱の元となります。地図ソフトの開発に長年携わってきた河合太郎さんによると、日本の住所には簡単には解決できない「揺らぎ」があり、混沌に満ちていて、とにかく「ヤバい」のだそうです。
そんな河合さんの元に集まってきた住所の背景を調べ、掘り下げた最新著書『ヤバい日本の住所』(幻冬舎刊)には、驚きの住所が満載。そもそもなぜそんな仕組みになったのか、成り立ちからも見えてくる、日本の住所のヤバさを、ぜひ堪能してください。
今回は、『ヤバい日本の住所』から、住所の仕組みの一つである「地番制度」についてご紹介します。この制度が作り上げたのが、200世帯以上が同時に使用していたという住所です。
文/河合太郎
「●番地」と「●番」、どちらが正しい?
日本の住所の具体的な例をいくつか挙げてみましょう。
・東京都港区六本木6丁目10番1号(六本木ヒルズ)
・埼玉県さいたま市浦和区高砂3丁目15-1(埼玉県庁)
・茨城県龍ケ崎市3710番地(龍ケ崎市役所)
・高知県安芸郡馬路村大字馬路443番地(馬路村役場)
・福島県喜多方市松山町鳥見山字三町歩5598-1(道の駅 喜多の郷)
どれを見ても、東京都や埼玉県といった大きなエリアから、順番に詳細な情報が記述されているのが分かる一方で、その内容がかなりバリエーションに富んでいることにもお気付きかと思います。これらの住所を構成する要素を同じタイプごとにグループ分けすると、大きく分けて、
・地方自治体(都道府県と市町村・特別区)
・地域の区分
・建物・土地の情報
の三つの階層があります。
住所表記の最後の階層にあるのは、建物あるいは土地についての情報です。この部分は、他の階層よりシンプルに見えるかもしれません。基本的には数字だけで構成され、10番1号という「●番▲号」の形、あるいは4698番地といった「●番地」という形、そしてそれらを数字とハイフンだけで表した10-1や4698といった形が大半です。
ここで「番地、と、番、ってどっちの表記が正しいの?」と思った人は観察眼が鋭い。実はシンプルに見えるこの階層は、まったく異なるくせに文字面の見た目は非常に似ている2種類の仕組みが同時に運用されている、という混沌とした階層なのです。一つは土地を基準とした仕組みで、明治時代に不動産登記のために始まって以来ずっと使われてきた地番制度、もう一つは建物を基準とした仕組みで、1962年に施行された「住居表示に関する法律」で定められた住居表示制度です。
簡単に経緯を説明すると、明治以降、住所が最終的に示す場所は土地の番号(地番)で表されてきたのですが、半世紀ほど前に建物を表す仕組みが発案され、導入が進められてきました。しかしすべて置き換えられるということはなく、それらがいまだに併用されている、という状況です。で、番地と書かれている方は地番制度で土地を表し、番と号で書かれている方は住居表示制度での番号で街区と建物を表しています。書いていても混乱してくるので、読んでいらっしゃる方はもっと混乱されていることでしょう。以下に詳しく説明します。
地番制度――不動産登記の仕組みであるがゆえの不都合

まず地番制度について説明しましょう。前述の通り、地番制度はもともと不動産登記のための仕組みです。どのような土地が誰の所有であるかを管理するために、土地の区分を図示してそこに番号が振られています。そして土地に番号が付いたので、これは都合がよいとそのまま住所の表記にも用いたのです。
言い換えれば、あらゆる土地にこのとき初めて名前が付けられたとも言えるでしょう。これによって、住所の表記や、何より管理は飛躍的に効率的になりました。住所が本質的に人を表すものであった時代から、初めて場所を表すものに進化したのです。
地番は、それぞれの市町村で定められたある程度の区域(地番区域)の中で、重複しないように番号が振られます。地番区域は町・字であったり、あるいは市町村まるごとが対象の場合もあります。そこに1番、2番と番号を振っていきます。ルールとして、基本的に一度使われた番号は使いません。1番という土地を探して向かってみたら全然違う土地に同じ番号が付いていました、では混乱するのでこれは妥当なルールですね。そしてそこに振られた番号が、「番地」としてそのまま住所にも使われるようになりました。
ですので、不動産登記としては1番、住所としては1番地、という表記になります。制度名は地番、登記での表記は番、住所での表記は番地、ついでに言えば住居表示においての街区の表記も番、とこの辺りが混沌として分かりにくい原因の一つでもあります。
まあでもそういった表記の混乱を除けば、特に大きな問題もなさそうな仕組みに思えますよね。ところが住所として運用しようとすると、実際にはいくつか落とし穴があります。
まず、一つの土地に建っている建物が1軒とは限りません。広い一つの土地に何軒も家が建っていた場合、それぞれに違う人が住んでいたとしても、地番ではそれぞれの家を区別することができません。結局「n番地の、えーっと、×××さんの方」と江戸時代同様に、人の名前に頼った運用にするしかありません。
この最たる例がかつて存在した岐阜県岐阜市鷺山1769-2という住所で、約38,000平方メートルの地域に249世帯が暮らしていますが、なんとそのすべてが同じこの一つの住所を名乗っていました。読売新聞岐阜地方版の2018年3月23日付の記事に詳しいですが(※)それによると1950年、戦後の住宅不足を補うため岐阜市が地権者からこの一帯を購入し、賃貸の市営住宅を建設したとのこと。
※)https://www.yomiuri.co.jp/local/gifu/feature/CO006490/20180322-OYTAT50012/
その後建て替えや分譲が行われた際に当然ながら個別の住所を求められたものの、地番制度においては住所=土地の区分であり、新しい住所を割り振るためには土地を分割しないといけないのですが、そもそもの1769-2の境界線がはっきりしておらず、登記簿などの書類と合わないため新たな境界線の画定も困難であるとしてずっと見送られ続けてきました。ようやく2015年(平成27年)になってこの地域に住居表示を実施することが決まりこの問題は解決しましたが、土地としてはいまだに1769-2のままです。
もう一つの「住居表示制度」については次回、ご紹介します。
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『ヤバい日本の住所』
文/河合太郎
幻冬舎 1056円(税込)

河合太郎
1973年、岐阜県生まれ。
名古屋大学教育学部を卒業後、株式会社アルプス社で地図ソフトの開発に従事していたが、会社が民事再生を申請。それを買収したヤフー株式会社でLatLongLabなど地図サービスの開発を行いつつ、Appleが新しく発表した自社製地図をdisっていたところを見つかりそのままAppleに転籍、渡米。「マップ」アプリの改善を担当する。現在サニーベール市在住。インターネット上の識別子はinuro。











