カール・ヴァルザー(1877-1943)の名を知る人は、美術業界においても決して多くはありません。母国スイスでは、近年その再評価が始まっていますが、知名度のかなり低い画家と言っていいでしょう。

しかし、作品の価値や魅力は、その名が知られているかどうかとは関係がありません。ことに謎めいた神秘性を湛える初期の象徴主義的作品群の鮮烈さは、観るものを魅了します。

《隠者》1907年 チューリヒ美術館

東京ステーションギャラリーで開催の「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」は、ヴァルザーの日本初の回顧展です。(4月18日~6月21日)

本展の見どころを、東京ステーションギャラリー館長の冨田章さんにうかがいました。

「カール・ヴァルザーとは何者か? 知られざる作家に光を当てるのは東京ステーションギャラリーの得意技ですが、ほぼ知名度ゼロに近いこの男、いったい何者なのでしょう。

1877年にスイスのベルン近郊にある街ビールに生まれたヴァルザーは、世紀末から20世紀前半にかけて、主としてベルリンで活動した画家です。

1902年に当時の前衛画家グループであるベルリン分離派の展覧会でデビューしたヴァルザーは、世紀末の残照を浴びたような神秘性と象徴性をそなえた謎めいた作品で脚光を浴びます。

《婦人の肖像》1902年 ゴットフリート・ケラー財団(新ビール美術館寄託)

読書する女性像は印象派の画家などもよく描いていますが、どこか不穏なこの作品、空間からして不可解です。女性のいる空間と、画面上部の牧草地とはどういう関係なのか。この女性が空想している風景だ、との説もありますが、真相はいかに?

ヴァルザーは挿絵も数多く描きました。中には晩年のビアズリーの影響を強く感じさせるこんな作品もあります。

《『シュヴァリエ・フォーブラのアバンチュール』挿絵のための版画「ひどい頭痛!どうしたらよいかわからない」》
1910年頃 スイス国立図書館

他にも舞台美術や壁画など多くの分野で、縦横無尽の活躍をした人気画家だったのです。巧みなデッサンもさることながら、洗練された色彩感覚がみどころです。

《「ラ・ボエーム」学生と少女たち》1911年 新ビール美術館

ヴァルザーは1908(明治41)年に来日しています。半年弱の滞在中、東京や京都などで多くの作品を描きました。

《京都先斗町の鴨川納涼床》1908年 ゴットフリート・ケラー財団(新ビール美術館寄託)

特に宮津(京都府)に長逗留して、当地の芸妓や歌舞伎役者などの姿を美しい水彩で描いています。これらの作品はほとんど展示されてこなかったため、鮮明な色彩が残されており、120年前の日本が鮮やかに甦ります。その美しさをぜひ会場で味わってください」

《歌舞伎の女形[阿古屋]
(《芝居の一場面》のための習作)》
1908年 ベルン美術館(友の会)

ヴァルザーが日本びいきであったことに親しみを感じます。ぜひ会場に足をお運びください。

【開催要項】
スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏(くら)き残照
会期:2026年4月18日(土)~6月21日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1ー9―1
電話:03・3212・2485
公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
開館時間:10時~18時、金曜日は~20時(入館は各閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし5月4日、6月15日は開館)
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照
巡回:大阪中之島美術館(7月4日~9月27日)

取材・文/池田充枝

 

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