文・写真/杉崎行恭
3月中旬から桜前線は日本列島を北上していきます。温暖化のせいか桜の開花もだんだん早くなってきた感じですが、それでも日本列島は南北に長い。桜の開花が4月になる北陸や東北の駅桜にも注目です。
今回ここで紹介する駅は、特に桜の名所ではなく旅の途中で偶然見つけたところがほとんどです。普段は地味で簡素なローカル線の駅が、この時期だけ桜の絶景駅になる。春の列車旅はそんな思いがけない風景に出会える楽しさがあります。北の駅の桜は訪れる人も少なく、自分だけの風景を堪能できるところばかりです。
富山地方鉄道 上滝線 大庄駅 富山県


まだ北アルプスの山々に雪が残る4月上旬、富山地方鉄道上滝線の電車から偶然見たのが大庄駅の見事な桜でした。近所の人に聞くと「駅の開業記念で植えたものらしい」とのこと。ちなみに大庄駅の開業は大正10年(1921)なので、105年前の桜ということになります。ところで平成17年にここにあった旧駅舎が火事で失われてしまいました。そのとき難を逃れた三本の桜が、再建された駅舎の両側で咲いています。
城端線 城端駅 富山県


砺波平野に路線を伸ばすJR城端線、その終着駅城端は丘に突き当たるように線路が終わっています。この駅でキハ40を降りると、一群の桜が目に入りました。駅の構内と畑を仕切るように植えられたソメイヨシノが、雪が残る山々を背景に懸命に咲いていました。駅の裏に行って写真を撮っていると、畑仕事をしている人に「さくら道」の話を聞きました。かつてこの城端を通る国道156号線を走る国鉄バスの一車掌が、金沢から名古屋まで桜で結ぼうと私財を投げ打って桜を植え続けた実話です。城端駅にあった彼が植えた桜は無くなったそうですが、この話は映画にもなったそうです。
磐越東線 夏井駅 福島県


郡山といわきを結ぶ磐越東線の沿線も桜の名所が多い路線です(あの三春の滝桜もこの沿線)。あるとき磐越自動車道の高速バスから川沿いに咲く見事な桜並木が見えました。調べると夏井川の堤防に植えられた「夏井千本桜」という名所だとか。翌年、磐越東線の列車に乗って、もよりの夏井駅におりると桜の老木がありました。堤防の千本桜は昭和47年(1972)以降に植えたものですが、夏井駅の桜は、たぶん駅が開業した大正6年(1917)頃のものでしょう。すでに駅舎は取り壊され、ちいさな待合室だけの駅ですが、不釣り合いなほどの立派な桜が迎えてくれます。ホームから見ると、駅の老桜の向こうに千本桜が楽しめます。列車を待ちながら花見ができる贅沢な駅です。
会津鉄道 湯野上温泉駅 福島県


「そっと訪ねる」には向かないかも知れませんが、会津鉄道の湯野上温泉駅も圧倒的なボリュームの桜が咲く人気の駅です。ここの特徴はソメイヨシノやヤマザクラ、しだれ桜が混ざっていっぺんに咲く桜の共演が見られること。茅葺き屋根の駅舎とともに、満開になるとホームに覆い被さるように咲く桜と列車の絵葉書のような風景が見られます。駅舎の中はちゃんと火が入る囲炉裏、横には無料の足湯もあって、春の会津を満喫できる駅です。
旧日中線 熱塩駅 福島県


磐越西線喜多方駅から、山形県の米沢を目指して建設されたのが国鉄日中線でした。でも、昭和13年(1938)に熱塩駅まで開通したところで工事は終わり、片道11.6kmの国鉄日中線として走ってきましたが昭和59年(1984)に廃止されました。ここは本州で最後となる蒸気機関車の定期列車が走っていて、SLファンが詰めかけた路線でした。その終着駅だった熱塩駅は、ヨーロッパの山小屋を思わせるモダンな造りの駅舎で、今は「日中線記念館」として公開されています。4月中旬、その旧熱塩駅構内の桜が一斉に咲き誇ります。赤い屋根の駅舎が、桜を従えて飯豊連山を背景に建つ姿は、まるで童画のシーンみたい。ちなみに喜多方駅から延びる日中線の廃線跡も、しだれ桜の並木で知られています。
只見線 会津宮下駅 福島県


昭和16年(1941)、只見川のダム建設の輸送基地として誕生したこの駅も、開業以来の桜の老木が見事です。駅舎も銘木風の柱をデザインした白壁にハーフティンバーで個性を出しています。駅前に茂るソメイヨシノの間になぜかテレサ・テンの歌碑があり、センサーで感知すると歌が流れます。この町に生前、テレサ・テンが訪れたそうです。ところで只見線には郷戸駅や会津柳津駅といった見応えのある桜の駅が並んでいます。列車本数がちょっと少ないですが、その分ゆっくり楽しめる只見線です。
狩川駅 陸羽西線 山形県


奥羽本線新庄駅と羽越本線余目駅を結ぶ陸羽西線は、最上川のスケールの大きな車窓風景が楽しめる路線です。ここは3年8か月間、高規格道路工事の関係で運休していましたが、令和8年(2026)1月16日に運転を再開しました。最上川に沿って走ってきた陸羽西線が、庄内平野に出たところに狩川駅があります。豊かな水田と、ところどころに風力発電の風車が見える駅の北側に、ずらりと桜が続いています。遠くから見るとまるでピンクのカタマリです。今年、久しぶりに見る狩川駅の桜が楽しみです。
文・写真/杉崎行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。
※杉崎の「崎」は正しくは「たつさき」











