昼夜兼行

ある程度の年になると、ふと立ち止まって、これまでの歩みを振り返ることが増えてきます。そんなとき、自分の半生を言い表す「短い言葉」を探してみるのも一興です。先人の名言やことわざの中に、「まさにこれだ」と腑に落ちる一文が見つかるかもしれません。

名前も知らなかった人物の言葉が、不思議と自分の経験に重なる…そんな「偶然の一致」が、背中を押してくれることもあります。今日の言葉は、いまのあなたに何を示してくれるでしょうか?

さて、今回の座右の銘にしたい言葉は「昼夜兼行」(ちゅうやけんこう)です。

「昼夜兼行」の意味

「昼夜兼行」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「昼も夜も休まず道を急ぐこと。また、昼夜の区別なく、物事を続けて行うこと」とあります。

昭和の時代であれば、この言葉は「寝食を忘れて働く企業戦士」の代名詞のようにも使われました。しかし、令和の今、「昼夜兼行」は、単なる長時間労働を指すのではありません。

「時間を忘れるほど何かに没頭する情熱」
「限られた人生の時間の中で、成し遂げたいことへの急くような思い」

そういった、内側から湧き上がるポジティブなエネルギーとして捉え直すことができるのです。50代を過ぎて、「どうしてもこれを完成させたい」「この技術を習得したい」と思えるものに出会えた時、私たちは自然と「昼夜兼行」の状態になるのかもしれませんね。

「昼夜兼行」の由来

この四字熟語のルーツは、中国の古典『三国志』「呉志・呂蒙伝」にあります。三国時代、呉の武将・呂蒙(りょもう)が、蜀の関羽(かんう)を奇襲するため、病を装って軍を退き、警戒を解きました。そして、孫権の命で再起。軍勢を率いて、昼夜兼行で進軍し、見事勝利を収めたのです。「兼行」の語源は、まさにこの「一日に二日分の距離を急ぐ」軍事描写から。元は軍事用語ですが、今はビジネスや人生の努力に転用されています。

「昼夜兼行」を座右の銘としてスピーチするなら

「昼夜兼行」を座右の銘としてスピーチするときは「無理をしている自慢」に聞こえないようにすることが非常に重要です。

特に50代以上が「昼夜兼行で頑張りました」と言うと、若い世代には「休まないことが美徳という古い価値観の押し付け」と受け取られかねません。また、健康面を心配されてしまうこともあります。ポイントは、「楽しさ」や「没頭」を強調することです。

「やらされている仕事」ではなく、「やりたくてたまらないこと」だからこそ、昼も夜も忘れてしまった、というニュアンスを込めましょう。

以下に「昼夜兼行」を取り入れたスピーチの例をあげます。

第二の人生のスタートラインでのスピーチ例

長年勤めた会社を卒業し、晴れて「毎日が日曜日」となりましたが、実は現役時代よりも忙しい日々を送っております。今の私の座右の銘をあえて挙げるなら、「昼夜兼行」でしょうか。現役時代、この言葉は「納期に間に合わせるための苦しい徹夜」を意味していました。しかし今は違います。

50の手習いで始めた「そば打ち」に、完全にのめり込んでしまったのです。粉の配合、水加減、そして練りの力加減。納得のいく蕎麦が打ちたくて、朝から晩まで粉まみれになり、夜は布団に入ってからも「明日はどう打とうか」と考え続けてしまう。まさに、昼も夜も道を行く「兼行」の状態です。

若い頃の「昼夜兼行」は、誰かのための、あるいは会社のためのものでした。それはそれで尊い経験でしたが、今の「昼夜兼行」は、純粋に自分の知的好奇心を満たすためのものです。これほど贅沢な時間の使い方があったのかと、驚いております。

人生100年時代、残された時間は長いようで短い。だからこそ、好きなことには貪欲に、体力と相談しながらではありますが、「昼夜兼行」の情熱を持って、この第二の青春を駆け抜けたいと思っております。皆様もぜひ、時間を忘れるほど夢中になれる何かを見つけてみてください。

最後に

「昼夜兼行」とは、物理的に体を酷使することではなく、「心のエンジンの回転数を上げること」と解釈できるでしょう。年齢を重ねるにつれ、私たちは人生の優先順位を見つめ直す機会が増えていきます。仕事一筋だった日々から解放され、自分のための時間が持てるようになる。そんな人生の転換期だからこそ、「昼夜兼行」という言葉が新しい輝きを放つのです。

かつてのように体力に任せて働くのではなく、限られた時間とエネルギーを、本当に価値あることに注ぐ。趣味の深掘り、資格取得への挑戦、地域社会への貢献、あるいは家族との時間を大切にすること。どれも「昼夜兼行」の精神で取り組む価値のあることばかりですね。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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